教育福島0218号(1999年(H11)4・5月号)-035/52page

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しゃべるようになりましたが、逆に吃音の頻度は多くなりました。

ひらがなの清音はほぼ読めますが、濁音はまったく読めない状態だったので、「文字の絵本」や単語カードなどを使って、楽しく学習できるよう心掛けました。

五月には吃音の状態がひどくなり、会話では単語ごとに語頭でつかえる程でした。しかし、絵カード命名やひらがな読み、復唱遊びなどでは、吃音がぐんと少なくなってきました。気分転換のため取り入れた「ウルトラマンごっこ遊び」では、見事にウルトラマンになりきって、まったく吃らない演技を披露してくれました。

六 七月には、それまでの学習に加え、文の復唱を本格的に取り入れて指導することにしました。

初めは、一、二語復唱するのがやっとで、抵抗も大きかったようですが、A君が根気強くくり返していくうちに、徐々に力がついてきて、夏休み前には、四、五語まで復唱できるようになりました。

吃音の頻度は相変わらず多かったのですが、ことばの最初の音が出てこないという状態は少なくなってきました。口の開きも以前よりよくなり、声もしっかり出せるようになってきました。

二学期に入り、A君の文字に対する抵抗がだいぶ少なくなったので、吃らないで音読ができるようにするための指導を本格的に取り入れることにしました。

指導に当たっては、A君に音読を好きになってもらうことが何よりも大切なこと巷ので、A君の力で容易に読める程度の長さや内容で、しかも読んで楽しくなるような絵本や紙しばいを教材として活用しました。

また、一人で全文を読ませることは避け、一文ごとの交代読みや一斉読み、追いかけ読みなどを適切に組み合わせ、A君の意欲が高まるように工夫しました。この活動は、スムーズに受け入れられ、吃音もそれほど出ない状態だったので、徐々に詩の本や教科書などの文も取り入れていきました。

十月ごろからは、それまでの指導に会話指導を加えて、より充実した指導を目指すようにしました。

1)導入では、ことば遊びや絵かき歌をどの活動により、楽しく自由な発話を促、2)次に、色々な文の復唱により、吃音の少ないスピーチをたくさん経験させる、3)続いて、音読指導によりなめらかな音読に導き、自信をもたせる、4)そして、自由会話や人形劇などにより、会話の楽しさを知らせていく、という流れで指導に当たりました。


5 家庭や在学校との連携

以上のようなA君への直接的な働き掛けと並行して、両親や在学校の担任との連携を深める取り組みも積極的に行ってきました。

通級指導後の母親との話し合い、連絡カードや電話による在学校の担任との連絡、在学校訪問による授業参観とその後の話し合い、特別に時間を設けての父親との話し合いなどです。

これらのことを通して、両親や在学校の担任が、A君のために何を為すべきかについて、本気で考え実行してくださったことは、A君の指導を進める上で、大きな支えとなりました。特に、在学校の担任からの連絡カードに書かれたコメントは、学校生活の中でのA君の吃音の状態の変化を知ることができる大変貴重なものでした。


6 まとめ

二月になった現在、A君の吃音は、相変わらず良い状態と悪い状態とのくり返しですが、ことばの最初の音が出てこないという状態はほとんど認められなくなり、吃音の頻度も少なくなってきました。そして、少しぐらい吃っても気にせずにどんどん話をすることができるようになってきています。

また、吃音の改善に伴い、構音障害も徐々に改善の方角に向かってきています。

今後もさらに、A君の吃音の変化に柔軟に対応しながら、地道でねばり強い指導を続けていきたいと考えています。


おわりに

通級による指導は、個々の児童生徒の障害の状態に応じて、個別指導を中心とした特別の指導をきめ細かに、弾力性をもって提供する教育です。この新しい形態の教育も、教職員や保護者等の方々の理解を得て徐々に定着し、大きな指導の成果を上げています。今後も一層の充実が期待されています。


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