私の夜を徹しての授業準備など全く意にも介さず、後ろを向いてみたり、横を向いてみたり。あの日の感動は何処へ・・・・・・?話が違うぞ、と嘆きつつ、「ここはどう思う?」という質問に、「はいっ」と元気よく手を挙げる数少ない姿に心を慰めている。そして、そんな生徒の笑顔についつられて、今日の夜もせっせと教材研究に励むのである。
(県立大沼高等学校教諭)
“duck”と“dog”
菊地 一彦
十数年前のことだが、カナダで農業の研修をする機会があった。バーナードという名前のペンフレンドがカナダに住んでおり、農場で働いていたのだ。トロントから電車で数時間の距離にあるナパニーという小さな町の農場であった。農場の仕事を手伝う代わりに無料で宿泊させてもらえるという条件だったので、不安よりも大きな期待を抱いて渡航したことを覚えている。
仕事の内容は、朝食前の乳搾り、朝食後のチーズとバター作り、午後の干し草作りといったところであった。どの仕事も大変だったが、干し草作りは特に辛い仕事であった。とにかく敷地が広いのだ。最初のうちは、広大な風景に感動を覚えていたのだが、だんだん嫌気がさしてきたのも事実であった。「日の照っているうちに干し草を作れ」ということわざがあるのだが、そのことわざ通り、天気が崩れる前の仕事は重労働であった。
英会話にはある程度自信があったのだが、ある日大失敗をしてしまった。夕食時の雑談の時に、「私たちは、犬を食べる」と彼らが言うのである。たまたま隣に飼い犬が座っていたので、「この犬も食用なのか」と真顔で聞いてみた。その後は大笑い。「ダック」と「ドッグ」が聞き分けられなかったのだ。十年近く英語を学習してきた結果がこれだったのだ。
カナダで学んだことがもう一つある。それは、彼らの励まし方である。チーズ作りやバター作りに失敗した時、“You can do that.”(君ならできるよ)と決まって言うのであった。何とうれしかったことか。この励ましのおかげで何とかやり通せたようなものだった。
現在、教職十四年目を迎え、英語を担当している。英語の音声指導には特に力を入れ実践している。生徒たちは“ducu”と“dog”の区別は何とかできるようだ。また、大自然の国、カナダが教えてくれた、“You can do that”は、私の人生哲学の基礎となっており、何かに挑戦する時に必ず心に抱く言葉である。子供たちを励ます時も、この言葉が不思議な力を発揮しているのである。
近いうち、カナダを訪問したいと思っている。四回目の訪問になるが、また別の顔を期待している。
(二本松市立二本松第一中学校教諭)