教育福島0223号(1999年(H11)11・12月号)-036/48page

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心に残る一冊の本

心に残る一冊の本 心に残る一冊の本



象を知らない

アフリカの子供たち

東村立東中学校教諭

尾股洋子

尾股洋子

「何を読んであげようかな、と書店に入り、手にとった一冊の本。

水もなく、緑も少ない。内戦もある。動物が生きていけるような所はない。人間が生きていけないのだから。豊かで平和でなければ象やキリンは見られないのだ、と日本の子どもたちに知ってもらいたい」─本文引用―

前書きにあったこの言葉に、はっとさせられました。 

「トットちゃんとトットちゃんたち」は、ユニセフの親善大使として世界の恵まれない子供たちのために活動している黒柳徹子さんの著書です。ここには、黒柳さんが訪れた国々の子供たちの悲しく厳しい状況が、飾らない言葉で、現実をしっかり見つめて語られています。そんな中にあっても、子供たちは純粋にけなげに生きています。きちんと順番を守って泥水を飲む子供。大きくなるまで生きていたい、と答えた子供。

今、私の世代も戦後の平和な時に生まれ、本当の大変さなど知らずに育ちました。ましてや今の子供たちは、物があふれる消費の時代に生まれ、ほしいと思えば何でも手に入ります。しかし、大切なものをなくしていることも確かです。

この本は、豊かさとは何なのか。自由とは何か。平和とは。人間が人間らしく生きるとは、どういうことなのかを問いかけてくれているように思います。

私は時々、生徒に読み聞かせをするのですが、卒業していく生徒の一人が、「先生にはよく本を読んでもらったよね」という言葉を残していきました。ああ、覚えていてくれたんだな、とうれしくなりました。

生徒たちの心に響く本を、また見つけて読んであげよう。そんな気持ちにさせられたひと言でした。

本の名称:トットちゃんとトットちゃんたち
著 者 名:黒柳徹子
発 行 者:講談社
発 行 年:1997年7月4日
本コード:ISBN4‐06‐204154‐5




ファウンデーション

田島町立田島小学校教諭

渡部秀和

渡部秀和

子供のころから本を読むのが好きだった。「十五少年漂流記」「宝島」「ロビンソン漂流記」など特に冒険物を好んだ。主人公が未知の世界と遭遇し、苦闘しながらも生き抜いて行く姿にハラハラドキドキしながらページをめくった。それがいつしか「次郎物語」になり「カラマーゾフの兄弟」になってしまった。もちろんそれはそれですばらしい作品であり、十分に心の糧となっているのだが、物語を読むということはもっと楽しいことであったはずだと思い続けていた。大人のための「十五少年漂流記」はないものか、と思い続けていた。そんな時出会ったのが、アイザック・アシモフの「ファウンデーション」だった。

時は銀河紀元一二〇五〇年、所は銀河系全域、人類は、一万二千年の歴史を誇り、銀河系全体にその勢力を伸ばしていた。その繁栄の絶頂期に、すでに人類没落の歴史を予測していたのが、歴史心理学者のハリ・セルダンだった。彼がその没落を防ぐために設立したのが、二つの「ファウンデーション」だった。二つは銀河系の果てに設置された。一方のファウンデーションは科学者集団の植民によって作られ、もうひとつは謎のまま残された……。SFの粗筋を書くほど野暮なことはないのでこれくらいにする。

私がこのシリーズを読んだのは三十歳の時だった。歳がいもなく、興奮しながら三日三晩徹夜で読み通した。それはまさに大人のための「十五少年漂流記」の世界だった。子供時代の読書の至福を彷佛(ほうふつ)とさせるものだった。物語の頭書は主役と思われていた科学者のファウンデーションが実はおとりに過ぎず本物のファウンデーションは我々の身近なところにあった。などという件は、灯台下暗しの例え通り万人の共感を呼ぶものである。かく言う私は、家内や兄弟に一読を強制したものである。アシモフには叱られるかもしれない。

本の名称:ファウンデーション
著 者 名:アイザック・アシモフ
発 行 者:ハヤカワ文庫
発 行 年:1984年4月30日
本コード:ISBN4‐15‐010555‐3


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