教育福島0224号(2000年(H11)1月号)-017/48page

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差に悩む生徒、親の意見と自分の考えの違いに悩む生徒、将来に対する目標がもてずあせりばかりが先行している生徒などとその実態も多種多様であった。導入段階において、多くの生徒の考えを発表させたことで「だれにでも悩みがあり、それに必死で立ち向かっている」互いの姿をそれぞれが確認でき、より高い価値を求めるための動機づけとなった。

「『今を生きること』を真剣に考える心を育てる授業」では教室の掲示板には「彼女」が一年生のとき書いた「将来の夢」が掲示されている。また、「彼女」自身が共に過ごした学年であるので、友達も多い。作文の著者も、現在本校に在学している。よって、生徒にとっては本当に身近に感じられる資料であった。その身近な友達の「死」を通して生命の尊さを実感した作者に共感し、同じ気持ちをもった生徒がほとんどであった。

さらに、その命を生かし、目標をもって強い心で生きることに人生の喜びがあり「命を輝かせることにつながる」という高い価値観を抱いた生徒も多かった。

総合単元的に学習計画を立てて、学級活動や他教科、または道徳の他の価値項目と関連づけて実践したことで「精一杯生きよう」とする道徳的実践意欲が高められ、学級活動や進路の選択に関わる活動に生きたと感じた。

一人一入の生徒の意見を大切にする
一人一入の生徒の意見を大切にする



四 研究の成果と今後の課題

個を生かす手立てとして、学級の中の一人の生徒「この子」に注目し、その生徒を核とした授業づくりに心掛けた。その結果、その生徒を取り巻く人的環境や物的環境を教師が見つめることにつながり、結局は学級の生徒一人一人全員を、細かく理解しようとしていたことに気がついた。そしてその生徒のよさを見つけようとする観点は、その生徒の道徳的実践力の評価の観点と一致することに気づいた。その評価を次の道徳の時間に生かすことで、より高い理想をもって生きようとする生徒の姿を見ることができたと考える。

また、生徒のよさを見つける過程は、生徒と指導者の共感的なふれあいの場をつくり、よさを認められた生徒は自己存在感を感じ、自分に自信がもてるようになり、生徒指導の機能を生かした指導につながった。アンケートの結果から見ても、教師が時間をかけて準備をし、その思いを込めた道徳の時間は一番印象に残ったものとなっており、道徳的実践意欲も高いものとなった。

道徳の時間の評価は、その生徒が在籍しているときだけにとどまらず、長い目で見守る必要がある。卒業生の手紙の内容から、道徳の時間に芽生えた実践意欲が実践力となって働いていることが読み取れる。今後も、長期的、将来的に追跡調査をできるかぎり行っていきたいと考える。それがまた、次世代の中学生にとって、道徳的実践意欲を奮い立たせる資料となることを期待したい。

また、道徳の時間をより充実させる手立てとして「総合単元的」に学習計画を立て実践を行った。道徳の時間を核として各教科・学級活動との関連を明確、にし、意図的な指導を行ったことで道徳の時間に「広がり」と「深み」をもたせられた。さらに、「総合的な学習の時間」として将来取り組んでいければ体験活動との関連や、場に応じた道徳教育が展開されるであろうと考える。その有効な指導計画と実践方法、またそこに関わる資料の開発にも力を入れていきたいと考えている。


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