教育福島0224号(2000年(H11)1月号)-027/48page

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しく思うひとときを楽しんでいた。まもなく自分の番になる頃、司会者が来て、「ごあいさつの中で歌をご準備されていると伺っておりますが」「えっ……」突然冒頭の一言がよみがえった。ちゃめっ気たっぷりの二人にやられたなと思いながら、「わかりました」と言わざるを得なかった。引き受けたのはいいが何にしようかと困っていたとき、隣の席のY君から「『乾杯』がいいんじゃないですか」と言われ、必死に一番だけを思いだし、何とか無伴奏で歌いあげることができた。

冷や汗をかいた披露宴ではあったが、この発端は十二年前の文化祭にさかのぼるのだと思う。校内合唱コンクール最優秀賞を目指して、自然と練習も熱を帯びていった。私自身も生徒の意欲に少しでも応えようと、慣れない鍵盤ハーモニカで音取りをしたり、手拍子でリズムをとったりなど生徒とともに曲づくりに懸命だった。文化祭当日、生徒たちは自信をもって堂々と歌い、満足感を味わっていた。その後、職員合唱披露、そして予定になかったアンコール。ステージに一人残された私は、「大空と大地の中で」を卒業生に贈る歌として歌った。その歌を、同僚の先生の働きかけもあり、卒業前に学年全員で歌うようになり、私自身にとっても思い出深い曲となった。結婚のあいさつに来た二人は、「中学時代一番の思い出の曲です。この歌を二人で時々歌うんですよ」と話していた。自分のつたない歌が、感受性豊かな生徒たちへの温かなメッセージとして心に刻み込まれていたのではと思うと、とてもうれしい気持ちになった。

一人一人の思いを大切にした個性重視の教育が叫ばれる今、生徒の心に響くメッセージをいっそう大切にして毎日を送りたい。そして、そのためにも自分自身が感性豊かでありたい。そんな思いを強くした一日だった。

(郡山市立郡山第二中学校教諭)





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