教育福島0225号(2000年(H11)2・3月号)-042/52page

心に残る一冊の本

先生お元気ですか

福島市立西信中学校教頭

黒澤美智子

教職について二十数年。たくさんの生徒たちと出会い、そして十五歳の巣立ちを見守ってきました。若い時は若いなりに闘志を燃やし、問題を抱えながらもその都度、生徒との共感的なふれあいを大切に過ごしてきたつもりでした。

ある時、高い識見を持った、経験豊富な先輩からの勧めで、一冊の本を手にしました。それが『先生への手紙』でした。やる気を起こさせてくれた先生に感謝の気持ちをこめて記した手紙もあれば、その反対に、先生の言動にとても悲しい思いをし、今でも苦しみつづけているといった手紙もあります。小学校、中学校、高校での教え子たちが先生方への思いを綴った手紙を一冊の本にしたものです。

中学生の頃、わたしにもこんな経験がありました。「宿題の俳句読んだわ。あなたの書くものって、どれもなんだか好きよ。これからも書き続けなさい」宿題ノートにさりげなく書いていただいた恩師の感想。その短い一言で、わたしはいつか落としてしまった夢をまた拾う気になったのです。ふわふわと漂っていたわたしが、やっと地上に根を下ろし始めたのです、あの日から。

「叱るだけでなく、良いところを見つけてほしい」「差別をしないで慈しみや温かさを感じ取らせてほしい」「一人一人の個性を大切にして、その子の能力を伸ばしてほしい」等々、その時々の生徒の生の声が綴られています。先生の何気ない一言がその生徒の人生に大きな影響を与えるのだと思うと、先生という職業の重みをひしひしと感じ、取り組まなければならない多くの課題に気付かせてくれた本でした。

これからも、「先生、お元気ですか」という喜びにあふれた便りが届くように、無限の可能性を持っている、二十一世紀を担う子供たちを育てていきたいと思います。

本の名称：先生への手紙
発行所：近代文芸社
発行年：1996年9月20日
本コード：ISBN 4-7733-5886-6

自然界のリズム

富岡町立富岡第一小学校教頭

根本修行

縞々と言えば、虎や横断歩道が浮かぶと思います。この本は、いろいろな分野の研究者が、地層に見られる縞模様や海底のボーリングコアの縞模様を、協力して研究し、縞模様から、地球の歴史に関する重要な情報を読み取ろうとしたものです。

海洋底地磁気の縞、グリーンランドの氷床のコアに残され急激な気候変動を示したダンスガードオシュガーイベント、海洋深層水循環の変動、地震、噴火の記録等は、地球内のリズムがもたらすもの。太陽活動、潮汐、マゼラン星雲の回帰等は、宇宙のリズムがもたらすものとして説明しています。これらのリズムやイベントが、それぞれの周期で繰り返され、相互に作用したりして、地球環境に変動をもたらしてきたことを研究の成果として述べています。

私は、掲載された見方や方法で、常磐地域に広く分布する縞々の地層を調べました。薄い二枚の砂岩と黒色の砂岩を挾む単元を一セットとすると、二十八回同じ事が繰り返されていました。セットの境には、周期的に層理に乱れが見られます。繰り返された長い安定の中にも、巨大地震のような変動があったことを暗示しています。

私たちは今、安定した気候の中で生活しています。過去には、寒い時期が何度かありました。約三千年前のものが厳しかったようで、大陸では政変があり、民族移動が起こりました。製鉄技術の拡散や日本へ稲作が伝わったのもこの頃だそうです。

気候変動の周期性から、今の状態は、温暖化で予断は許されませんが、あと二百年は続くと言われています。先人は、先の寒冷期を技術革新と価値観の転換で乗り切ってきました。これからの子供たちが、変動の周期を予測したり、技術開発をしたりして、危機を回避する能力を養うことができるかは、私たちの肩にかかっています。

本の名称：縞々学
著者名：川上紳一
発行所：東大出版会
発行年：1995年7月17日
本コード：ISBN4-13-060709-Ｘ