教育福島0225号(2000年(H11)2・3月号)-044/52page

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図書館コーナー

映画に観る図書館

《アメリカ映画を中心に》

異端審問の嵐が吹き荒れる十四世紀初頭の北イタリア。ベネディクト派修道院の文書館で起きる奇怪な殺人事件。会議のためこの地を訪れた修道士によって暴かれる事実。

イタリアの記号学者、ウンベルト・エーコが描く迷宮の世界を映画化した中世ミステリーの傑作『薔薇の名前』(八六)は、修道院にある図書館がその舞台となっています。このように、時として映画の中に図書館は登場します。

図書館が持つイメージなのか、青春映画や恋愛映画の中では、出会いや待ち合わせの場所として、さりげなく登場することがしばしばあります。懐かしいところでご紹介しますと、大学を卒業したばかりの青年の、微妙な心の変化を描いた傑作『卒業』(六七)や、その甘美なメロディーが記憶に残る『ある愛の詩』(七〇)などがあります。特に『ある愛の詩』では、ジェニーとオリヴァーの出会いは、ラドクリフ女子大学の図書館でした。

しかし、図書館と恋愛映画といってはずせないのは、オードリー・ヘップバーンの『ティファニーで朝食を』(六一)です。主人公ホリーは、ジョージ・ペパード扮する無名作家と図書館に立ち寄ります。そこで、作家である彼は図書カードを検索し自分の著書を出納してもらいます。出された本を手にホリーは、カウンターの女性司書に、「この本はこの人が書いたの、サインでもしてもらったら」と言いますが、「図書館では静かに、本は公共の財産です」と冷たくあしらわれてしまいます。それに対して、「ティファニーでも見習いなさい」と捨て台詞を言うという場面です。図書館と比べて、先に立ち寄ったティファニーでの対応がとてもよかったということを言っているわけですが、これもまた、図書館の一つのイメージなのでしょうか。

この舞台となっているのは、ニューヨーク公共図書館です。この図書館は他の映画にも登場します。『ゴーストバスターズ』(八四)では、カメラが閲覧室から書庫へ移動すると、カードケースが空中を飛び回り、それに驚く女性司書という映像が見られます。また、『さよならコロンバス』(六九)の主人公ニールは、この図書館の職員という設定でした。同じ図書館をいくつかの映画で見比べてみるのも一興かもしれません。

さて、刑務所の中の図書館も映画にはたびたび登場します。最近では『ショーシャンクの空に』(九四)があります。無実の罪で入所した主人公が図書係となり、暗く陰湿な図書室を明るく希望あるものにするため、州議会へ毎週一回図書予算の要求書を書き続け、獲得するまでの姿が描かれています。勧善懲悪的なストーリーも圧巻です。

その他、スタンリー・キューブリック監督の名作『時計じかけのオレンジ』(七一)では、主人公の心理描写を表現する環境として図書館が使われていますし、『アルカトラズからの脱出』(七九)では、クリント・イーストウッドが図書係に就き、ブックトラックに本を載せ、囚人たちの監房を回る姿が見られます。

アメリカの図書館サービスは大変優れていますが、戦場でも本の提供が行われているようです。『グッドモーニング・ヴェトナム』(八八)では、映像が出てくるわけではありませんが、「…米軍兵士への貸出はクバイ以下国内六ヶ所で、遠隔地の兵士には郵送サービスもあります。…」というディスクジョッキーの語りから始まります。

最後に、図書館はプライバシー厳守をその基本としています。どんな場合においても個人情報を提供することはありません。しかし、この「図書館の自由」に疑問を投げかける映画もあります。『大統領の陰謀』(七六)では、事件を追う新聞記者が、ホワイトハウス図書館と国会図書館へ個人の貸出記録を照会する場面があり、国会図書館では閲覧票の提供を受けています。また、『セブン』(九五)でも、刑事が貸出記録を調べる場面が出てきます。実際には無いことを願います。

※参考文献
・「みんなの図書館」一二四号/一六〇号
・「図書館雑誌」九一巻(一)
・「図書館界」二一八号


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