教育年報1960年(S35)-001/135page
§1教育行政
1総 説
昭和35年度の教育行政の重点は,教育の正常化のため
に努力がつづけられ,児童生徒の学力向上を中心にして
小中学校における新教育課程実施のための移行措置に対
する指導効果を検討し,準備体制の確立にあった。
また勤務評定も正常に実施され,その実施の目的が達
成されるにいたった。さらに県教育委員会においては,
市町村教育委員会,その他の関係機関と密接な提けいに
よって,教育行政の秩序を確立し,管下における職員,
その他の服務および活動の正常化を目ざし,教育に対す
る地域住民の信頼感をかち得ることが最も緊急なものと
考え,次にかかげる努力目標を設定し,それに基づく活
動がなされたわけである。
A 昭和35年度努力目標
a 教育行政秩序の確立をはかる。
新法施行第5年目を迎え,県・市町村教育委員会のよ
り緊密なる連絡体制を確立し,教育行政の一本化を図る
べくつぎの目標をもとに具体的な努力が続けられた。
(1) 県。市町村の一体化による教育行政の推進
(2) 主体的な行政態勢の確立
(3) 教育委員会の純織,事務局組織の拡充強化
(4) 行政事務の研究と事務能率の向上
(5) 関係職員の研修の充実
特に本年は市町村教育委員会の事務局組織の拡充強化
を図るために,関係方面への要請を緊密にし,その実現
に努力してきたところであるが,さらに市町村教育委員
会における職責内容を分析し,事務処理能率向上のため
に根拠となる法令,条規,行政実例及び通達等の明確
化を図り,教育行政全般についての手続き方法および書
式等の実務を掲載した市町村教育行政実務提要を発刊し
た。
こうしたことは,教育行政の秩序を確立し,県・市町
村行政の一体化を図り,教育の正常化のための重要施策
と考えられる。
b 科学・技術教育の振興をはかる。
科学・技術教育の振興策として,人事行政・現職教育・
施設設備の三点からながめてみると次のとおりである。
人事行政面では,産業界の好況から大学の理工科卒で
本県内に就職を希望した者はほとんどなかったことであ
る。ことに中学校技術担当教員として現場から要求され
た者は工業科出身者が圧倒的に多く,農商は全くなかっ
た。数学・理科の教員も不足し,小学校の副免所有者を
中学に採用する状況であった。また,中学校教員中・高
校へ移動した者もかなり見受けられたような次第であっ
た。県教委としてはこれら教科担当の優秀教員を獲得す
べく努力しているが,国家的問題として文部省の抜本的
対策が望まれる。高等学校適正配置の一環として工業科
の増設が叫ばれ,35年度においては福島工業高校に電子
科を新設したが,工業教員の全般的な不足があい路にな
っている。
教員の現職教育としては,文部省・県教委主催の理科
実験講座,技術家庭科研究協議会等を実施し,担当教員
の技術の向上に努めた。この種の実技中心の講習会の長
所として受講者が作業に熱中し,そのために受講態度が
きわめて熱心で,現職教育の効果は大きい。その反面,
莫大な物資を消耗し,多額な経費を伴ない,しかも一度
に多人数の教育が困難であることが科学技術教育の特色
である。しかし,受講者ひとしく有意義な会であったと
所見に述べているところから,今後着実にこの種現職教
育を続行し,施設・設備の充実と相まって科学技術の文
盲をなくしたい。次に学習指導法については,研究授業
等の機会をとおして次第に向上し,設備の充実と相まっ
て理科・職業の実験実習もよく行なわれるようになった
が工業高校における体質改善が望まれる。
施設・設備の充実については,理科教育設備は基準の
35%で全国平均より約1カ年間充実分だけ低い程度であ
るが,高校産業教育設備の43%は,全国水準より20%以
上低い。そのため職業科高校の科学技術教育は全国的に
みておくれがちである。実験実習費は県立学校に対して
すでに支出されているが,これがために県立学校におけ
る実験実習は活発に行なわれるようになり,各種振興法
による備品の活用度を増していることは喜ばしい。中学
校に対しても市町村が実験実習費を予算に計上すること
が望まれる。理振法は,分校を除いて小・中学校の大部
分,高校・盲ろうは2回以上うるおしている。産振法は
中学校に対してその過半数に及んでいる。
従って担当教員の認識意欲も振興法施行前に比して著
しく高まっていることは事実であり,今後ますますこれ
を助長する必要がある。
しかしその反面,生徒急増対策のため,理科・技術科
特別教室に転用される傾向にあることは遺憾にたえな
い。このことと良い教師が得られないことが科学技術教
育上のあい路になっている。
c 道徳教育及び生活指導の徹底を期する。
学校教育全体を通しての人間尊重の精神の徹底をはか
り,道徳教育の充実を期することは,各学校における道徳
教育の全体計画の上に具体化され,全教師が正しい認識
をもって一貫した指導を行なうようになってきている。
しかし,各教育活動において実際的に行なわれるため
に,全体計画についてじゅうぶん検討を加え,実践の反
省にもとづく改訂を行なうことが必要とされる段階にあ
る。