教育年報1961年(S36)-143/193page
はじめて,文章の中心となる文や語句が明らかになる
この焦点を何によって決めたらよいか,つまり,こ
れから読もうとする問題点または問いをどうして読み
手自身で設定したらよいかということである。
もっとも便宜的なものとして,題名,見出し,小見
出しをあげることができる。ふつうの文章では,各段
落の書き出しの文やことばに期待したい。とくに説明
的な文章においては,述べようとする方向を,はじめ
に打出すのが一般的であるからである。そして,書き
出しの文を問題として頭に置くのである。
・ 焦点化
文章の書き出しを読み手の焦点とすれば,文章を文
の羅列とする見方は改められる。つまり,焦点(問い)
に各センテンスを照らせば,おのずから「答」にあた
る重要な文や語句が浮かんでくる。学習は元来主体的
なものである,自分で問いを発見し,自分で解決の方
途を見出す能力を高めて,はじめて主体的な意味での
学力ということになる。
・ ことばの機能を考える
読みとるうえでだいじなことは「ことばに関する事
項」である。読みの焦点,焦点化にも,あるいは要旨
をとらえるにも,文型や文の成分の関係がいつもつき
まとう。また,意味のかかり方を考えるにも,(てん)
や助詞を重視しなければならない,このほか,文と文
の関係,正しくとえるため,断定,推量,意志などに
注意することなど,あげるといろいろな問題が重なっ
ている。文法に即した読みができることは,論理的な
思考力が高まってくることでもある。
イ 発問・板書・ノート
・ 発問は思考を刺激する
読解が自問自答を重んじた主体的な行為であるなら
発問もそれに即して,子どもの思考を刺激するという
限界を出てはならない,どのような発問によって子ど
も自身に焦点を発見させ,それを解決するてだてを考
えさせるか。
発問における禁句を「文章の内容をとり出すこと」
にして,もっぱら文章表現の上から発問することを研
究課題とした。
たとえば「何がどうだ,という形に気をつけて,書
き出しの文を考えよう」とか,「書き出しの考えに会
わせて,だいじ をとり出そう」などの発問によっ
て問題意識をもたせ,焦点化をはかるてだてを講じさ
せる。
発問が,表現に密着したものであれば子どもの反応
もまた,表現を通して内容をとらえるようになる,そ
して子どもの話合いは,もっぱら表現のしかたをめぐ
ってはずむようになる。これが内容の吟味になると,
理科や社会に発展せざるをえなくなる。
・ 板書はことばの働きを機軸として
子どもの反応が表現をめぐる活動の所産であるなら
板書もまた,表現に即したものが考えられるべきであ
る,つまり,発問と同様に,ことばの働きを機軸と
して板書を展開することである。そして,板書によっ
て,直ちに内容が復元でき,文章の組立や要点がわか
るように考えなければならない。
たとえば,学習のねらいや手順に従って,子どもの
発言をとりあげてまとめていけば,おのずから何を読
みの焦点とし何を要点としたかが板書だけでわかるよ
うになる。
・ ノートは理解のすじ道がわかる
ノートには,いつ,なにを,どのように学習したか
がわかるようになっているのがよい。板書をそのまま
写したり,漢字の練習があったりするのが多いが,そ
こには,学習の主体である子どもの思考が認められる
とはいえない。
読解では,読んだあとに考えるというより,読む過
程で考えるのがしぜんである。したがって,読む過程
でノートすれば,子どもの理解の過程がはっきりする
たとえば,学習で「読んでごらん」という指示より
「要点をノートにとりながら読みなさい。」と指示す
る方が,より実際的であろう。
こうして,ノートにとどめたものを根拠として話合
わせると,各人の考え方が紹介されるし,発表者も発
表しやすい。ノートは,それぞれの個性があらわれ,
理解のすじ道がわかるようなものが,もっともよい。
どの子どもも画一的に同じことを書いているような学
習指導は,子どもの思考を伸ばす,よい指導であると
はいえない。
ウ 授業研究
この学習指導法が,具体的に文章や子どもに即した
場合,どんな姿であらわれるかを提示すると共に,子
どもの理解の様相が,反応の上にどう表れているかを
検討しようとする目的で,11月ごろ,約5時間にわた
って授業記録をとった。
授業研究は,およそ二つのねらいを持ち,一つは教
授過程の分折であり,二つには,学習過程の分折であ
る。しかし,この場合,教授過程は分折というより,
具体化を目標としたので,授業の段階とその指導に解
説を付し,主として学習過程をとりあげた。
教授の段階と子どもの反応分折のおもな観点は次の
とおりである。なお本年度は授業分折の方法的な研究
に中心をおいた。
・ 文章の内容的な洞察をどう考え,学習の計画を
どう立てたか
・ だんらくのとらえ方,要点のとらえ方
・ 段落相互の関係をどのようにとらえたか
・ ことばの使い方,文にどのような配慮を持って
読んでいるか
以上の観点で授業の記録を提示し,子どもの読解の
過程(順位)を分折した。