教育年報1964年(S39)-205/232page
(3) 検証と結果
1) 比較群の設定
複式学級という特殊な集団であるため,統制群を複
式学級に求めることは困難である。環境が学力におよ
ぼす影響を考察し,産業構造や人口密度からみて,同
質の地域から統制群を選定し,児童の現有学力や,知
能が均質であることが望ましいことから,両群に,事
前テスト,知能検査を実施し,等質化をはかった。
統制群の中から,実験群の児童の知能,学力に対応
させて,1対1で抽出し,検証のため実質的な統制群
をとった。したがって両者の間に平均,標準偏差に有
意差なく,両群は能力の点で同質であることが統計的
に保証された。(社会科6年13名 理科4年11名)
(ロ) 実験の実施
実験は,同単元,同教材,同指導内容で,実験群で
はプログラム学習,統制群では一斉指導の形態で実施
しその効果を測定し,検証した。
3) 検証の結果と考察
社会科 (6年)
ア 実験群 平均 38.2 標準偏差 8.0
統制群 平均 32.1 標準偏差 13.6
実験群の人数が少なく,正常分配が保証されない
ので,ノンパラメトリックTテスト法により統計処
理を行ない有意差が保証された。
イ 事後テストにより,事実認識および,事実認識を
もとにして関係判断や推論することについての能力
は,実験群が有意差をもちすぐれているととがわか
った。
ウ しかし,統制群に学習の個別化を配慮し,作業等
を加味した学習指導をした結果については,両群に
著しい有意差は認められなかった。複式学級の学習
指導における学習過程では,事実認識,比較等によ
る分析,学習内容が比較的単純な関係づけによる総
合の過程の間接指導にプログラム学習をさせること
が有効であり,読図,資料分析などでは,シンクロ
ファックス等を導入すれば,効率高い学習指導が行
なわれるのではなかろうか。
理科 (4年)
ア 実験群 平均 31.6 標準偏差 5.0
統制群 平均 29.0 標準偏差 6.2
ノンパラメトリックT検定により,統計的処理の結
果,有意差がみとめられた。
イ 知識,理解の面ではプログラム学習の有効性がみら
れるが,思考の面ではみられなかった。
ウ 実験群では,知能の中以下の児童の成績の,のびが
みられた。
エ 事実から問題を設定したり,予想したり,原理,法
則などを適用し発展的に指導する段階でのプログラミ
ングは教材により困難であり,効率の点でも疑問がも
たれる。しかし,一斉に同じプロセスをたどらせるよ
うな基本的思考操作や,自然科学の基礎的知識を養う
場面でのプログラミングは比較的容易であり,有効さ
もみとめられる。
オ プログラム学習による児童たちの学習態度は,きわ
めて積極的で,教師の指示がなくとも全員学習にとり
くんでおり,プログラム学習の有効な分野を複式学級
の間接指導の面にとりいれることによって教育の効果
があがるものと期待される。
6 学力の学校差の要因の研究
(1) 研究の目的
全国学力調査の結果,学力にかなり大さな地域差や学
校差が見られる。このような学力差をさたす要因を明ら
かにすることは,学力向上の対策の基礎的条件である。
そこで,昭和36年に「学力を規定する要因の研究」を
とりあげ,学校規模,施設・設備,教員の学歴などの数
量化のでさる要因についてはある程度明らかにされたの
で,昭和38年度に「小学校における学力差の要因の研
究」をとりあげ,数量化の困難な要因の研究を行ない,
学力に影響をあたえる要因として,次のことを明らかに
することができた。
〇 教職員の協力体制を確立する望ましい人間関係
〇 教職員の教育に対する熱意
〇 教職員の研修意欲,学校の研修体制
〇 教職員の指導意欲と指導技術
〇 校長,教頭を中核とした実行力と指導力
〇 教職員の望ましい組織
〇 施設・設備の充実と活用
〇 児童の学習意欲と基礎的学習方法の訓練
〇 地域や父兄の教育に対する関心
本年度は,「中学校における学力を規定する要因の研
究」をとりあげ,前年度の小学校における研究の結果を
深め,一般化をはかるとともに,中学校におけ看学力差
をきたす要因を明らかにし,学力向上の施策の資料を提
供するため,この研究をとりあげた。
(2) 研究の方法
学校を単位としての学力は,個々の生徒の学力を規制
する個人的,生活的,教育的な諸要因の関連の総合的平
均である。したがって,学校間の学力差をきたす要因―
教育的な要因―を明らかにするには条件をでさるだけ統
制することが必要である。そこで
1) 生活的な要因を統制するため,調査対象学校とし
て,本県に学校数の多い純農村,普通農村地域に属す
る中学校で,学校規模が6〜9学級である学校からそ
れぞれ3校ずつ標本校を抽出する。
純農村地域 M校 (6学級) K校 (6学級)