教育年報1968年(S43)-175/197page
さて主題設定にかかわる二・三の問題について、若干の
説明を加えておきたい。
第一に対象者としての主婦についてである。本調査研究
では、"4・5才児をもつ社宅の母親"を対象としたわけ
であるが、その理由は次のとおりである。
1) 4・5才児の母親に限定した理由
ア. 4・5才児に対しては、母親はためらいが少ないで
あろうと考えられる。たとえば、母親はいけないと考
えたこと、感じたことは、4・5才児にはためらうこと
なく態度に示すであろうということである。ここで三才
児の母親を除外したのは、調査上の問題からだけであっ
て、今回は母集団として捕えやすいように、幼稚園に子ど
もをあげている4・5才児の母親に限定したにすぎない。
イ. 父親を一応表面に出さなかったのは、一般に父親は
子どもとの接触時間が少なく、子どもに対する態度も
画一化の傾向にあり、差がみられないのではないかと
いうところがらである。だが実際調査に当っては、面
接の際に"そのときお父さんならばどうするか"と問
うことによって、父親の子どもに対する態度も間接的
に調査するよう配慮し、父と母の家庭における役割の
資料も、副次的には得られるようにした。
2) 社宅の母親に限定した理由
ア. 現在では、社宅は特殊な環境であろうが、将来は、
社宅・団地のような様式の住まいが相対的に増加して
特殊でなくなろうと考えられる。
イ. 将来、生活様式の画一化は現在よりもさらに進み、
独自の生活様式は、現在よりもさらに後退するであろ
うと考えられる。
ウ. 行政上の区画である一つの市を対象区とすることは
調査期間・その他からみて、無理であろうと思われ
た、等である。
第2に就業主婦と専業主婦の問題である。このことは、本
調査研究の仮説にかかわることであるので、仮説をあげ、説
明をつけ加えたい。
仮説1.就業主婦と専業主婦とには、育児態度ならびに
育児型式に差がみられるであろう。
仮説2.管理職家庭の主婦とそれ以外の家庭(以下一般
職家庭という)の主婦とには、育児態度ならびに
育児型式に差がみられるであろう。
この二つの仮説から、就業主婦と専業主婦の比較、管理
職家庭め主婦と一般職家庭の主婦との比較を中心にして論
を進めたわけである。サブテーマには、特別な意味はない。
なお、若干付言をするならば、
1) 管理職家庭の主婦と一般職家庭の主婦というとらえ方
である。父親・母親の学歴と育児態度との間には、深い
関連があるといわれているがここでは、学歴によって層
化し比較するという方法はとらないことにした。なぜな
らば、育児態度に影響を与えるものとして学歴(教養)
の外に、社会的地位と収入が考慮されなければならない
のではないかと考えたからである。だから、ここでいう
管理職家庭とは、職制上の管理職家庭および管理職相当
職(医者、研究所員等)を指し、いわば"教養があり、
社会的地位も高く、したがって収入も多い家庭"という
意味に使用した。
2) 就業主婦の限界の問題であるが、ここでは、通年雇用
関係にある主婦のみを指し、パートタイマーは除外した。
3) 育児態度を判定する視点であるが、"伝統的""反伝
統的"の両極を考え、そこから"厳格""反省的""で
き愛""無関心"の4つのカテゴリーを設定したわけで
ある。ところで、伝統的に厳格の内容を含むものと予想
すれば、反伝統的にでき愛をあげるべきであろう。とこ
ろが現実的には"無関心"が両極になると推測されるの
で、順序をかえることにした。
4) 4つのカテゴリーを価値的にみて、どれが望ましいと考
えたかということである。両極に厳格と無関心をすえれば、
望ましいものは、当然そのどちらにも属さない反省的なも
のであろう。換言すれば、反省的な態度が生活場面なり問
題場面にどのようにあらわれているかということである。
以上のことから、本調査研究は、社宅における母親の育
児態度および育児型式を仮説にしたがって探ることにより
将来本県の家庭教育のあり方を考えていく上での基礎資料
を提供しようとするものである。
(2) 計 画
1) 調査対象地区・調査対象標本数等については、下表の
とおりである。
項目 会社名等 対象社宅名 所属幻稚園名 調査対象数 質問紙 面接 呉羽化学工業株式会社錦工場
(いわき市錦町鷺内、前原、落合 糠塚 呉羽幻稚園 聖心幻稚園 143名 20名 常磐生活共同組合
(いわき市湯本内郷)南、北、西区、八 ノ山、台ノ山、
竹 ノ内、宮沢御殿、 東、浜井場磐崎、台ノ山、傾 城町田、宮沢、御殿、
綴、東の各幻 稚園441名 36名 日本水素株式会杜小名浜工場
(いわき市小名浜)高山、弁別、岡尾 名 高山、弁別、白百 合の各幻稚園 34名 14名 計 18社宅 13幻稚園 618名 70名
2) 調査期日、方法等については、次のとおりである。
質問紙法による、質問紙1の調査は、昭和44年1月下
旬に質問紙2の調査は、昭和43年9月下旬に、それぞれ
期間をきって実施した。
個人面接法による調査は、昭和43年10月下旬〜11月
上旬にかけて、廷べ14日間を費やして実施した。
4 研究結果の普及
研究結果については、本庁ならびに教育事務所の指導主事
への研究中間報告と一般教員に対する中間報告会および、各
学校への研究紀要の刊行配布などにより、その内容の理解を
はかり、指導改善の資料として活用されるよう、その普及に
も配属した。
(1) 所報および研究紀要の発行
教育に関する調査、研究の結果得られた資料や、教育内
容方法の改善のための必要と思われる資料を提供するとと
もに、当研究所の研究内容を広報し本県教育の向上に資す
る目的をもって、「研究所報」を年5回発行し、それを県
内の小・中・高校に配布し、活用に供した。
さらに、当研究所で取りあげている研究については、そ
の結果を「研究紀要」として刊行し、各学校に配布し、指
導改善のための資料として活用できるようにしている。
本年度発刊の所報のおもな内容および紀要は次のとおり
である。
1) 研究所報の内容
ア. 国立および都道府県各研究所発行研究資料目録(第20号)
イ. 小学校新指導要領の研究資料(第21号)
ウ. 教育研究の進め方(第22号)
エ. 戦後の教育思潮(23・24号)
2) 研究紀要
ア. 地域指導者養成講座報告書(第5回生)
イ. 教育研究の実践―教育研究の進め方―
ウ. 地域教育振興に関する研究(紀要59号)
(2) 研究報告会