教育年報1990年(H2)-180/226page

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 第4節 教育調査研究事業

  1 共同研究 (3年継続、第3年次)

(1) 研 究 主 題

  心身障害児の指導援助のための実態把握の方法に関する

 研究 ―心身障害児の実態把握の方法の適用とその検討―

(2) 研究の趣旨

 近年、心身障害児の「障害」については、心身障害児の

 精神あるいは肉体が健康な状態に戻らず、どこかに機能や

 形態の損傷が残っている状態、すなわち「損傷」と、それ

 によって引き起こされる機能的な支障である「能力障害」

 及びその能力障害のためにそのままでは生活しにくい不自

 由な状態、すなわち「社会的不利」の三つのレベルとして

 とらえるのが望ましいという主張がなされている。このよ

 うな心身障害児一人一人に適切に対処するためには、個々

 の子供について、必要に応じて、この精神的又は身体的な

 損傷、能力障害及び社会的不利に関する実態をきめ細かに

 把握し、それに対して医学の面、福祉の面、そして教育の

 面から総合的に治療や指導、援助を行うことがきわめて大

 切である。

  一方、学校教育においては、小・中学校学習指導要領や

 盲・聾・養護学校の学習指導要領の総則の中にも子供の実

 態に即した指導の必要性が明確に位置づけられている。し

 たがって、心身障害児が在籍する各学校や各学級において

 は、これらの内容を正しく受けとめた教育的対処の在り方

 が問われることになる。加えて、障害の重度化・重複化、

 さらには多様化の傾向が進み、児童生徒一人一人の実態と

 それに応じた適切な指導援助の在り方の研究の必要性が、

 一層増してきている。

  そこで、本研究では「心身障害児の指導援助のための実

 態把握の方法に関する研究」の主題のもとに、心身障害児

 の指導援助のために、どのように実態把握を進めたらよい

 か、また、把握した実態を、実際の指導援助にどのように

 生かしたらよいかについて研究を進め、心身障害児の教育

 実践の一助にしたい。

(3) 研究の概要 (第3年次)

 1) 行動記録表(試案)の有効性、妥当性についての検討

   昨年度、試案という形で提案した行動記録表を視覚障

  害、聴覚障害など様々な障害にわたり、日々の授業で活

  用し、検討を重ね、その修正を図り、正式な「行動記録

  表」とした。

 2) 行動記録表の事例への適用に関する実践研究

   研究協力校の協力を得て、視覚障害児、聴覚障害児、

  精神薄弱児、肢体不自由児、学習障害児を対象に、授業

  の様子をVTRに収録し、それを行動記録表に表し、事

  例への適用を行った。

 3) 「行動記録Q&A」の作成

   この行動記録表を活用するための手引きとしての「行

  動記録Q&A」という小冊子を作成した。

  2 個 人 研 究

(1) 長期研究員による研究

研究主題 研究内容
発達の遅れを伴う 子供が少しでも滞りなく行動を
肢体不自由児の行動 調整しながら生活ができるように
の拡大・分化を図る するためには、安定したコミュニ
ための事例的研究 ケーシヨン関係を基盤に、子供の
チ@ 能動的な活動の中で適度の状況工
-音声言語を有する 作をしながら、行動の拡大・分化
H児の平仮名文字信 を促すことが重要であると思われ
号系の形成・促進を る。つまり、行動の拡大・分化に
目指して- 伴って信号系活動も分化するから
  である。そこで本研究ではH児の
(円谷美智子) 能動的な活動を共有しながら行動
  の拡大・分化を図るとともに、そ
  れに見あった信号系の活動として、
  新たに平仮名文字信号系を取り入
  れていけば、それを中継ぎにH児
  の行動をより一層調整を図ること
  ができるものと考え、整備された
  状況の中での課題学習を設定して
  形成・促進を目指した。
交信行動の形成・ 自力移動が困難で、発達の初期
分化に関する実践的 的な状態にとどまっている子供は、
研究 他者の働き掛けを主とする受動的
  な生活を強いられがちである。そ
-交信関係を促進さ うした子供たちとの交信関係の成
せるためのかかわり 立、促進を目指すかかわり合いは、
手の対応の在り方と 生活活動の進展を図るうえで重要
状況設定の工夫につ であると考える。本研究では、交
いて- 信関係を促進させるかかわり手の
  対応と状況設定の工夫について視
(石井正明) 点を当て検討を加えた。その結果、
  1)子供の行動を発信行動として受
  け止め、可能な限りそれに応じる
  ことの積み重ねがかかわり手に対
  する信頼感を増し、かかわり手の
  意向や打診を受け入れやすくなる
  こと、2)こうした交信関係を土台
  にして共有する行動が増えてくる
  と新たな構成信号(身振り、写真
  カード等)も形成されやすくなる、
  等の点が明らかになった。

(2) 奨 励 研 究

  次の5名の奨励研究の報告を研究報告会や所報等で実施

 した。

 ○ 福島県立盲学校教諭       柳内泰二

   「盲児のブラインディズムと行動発達に関する研究〜

   重複障害児Kに対する治療教育の事例〜」

 ○ 福島県立聾学校会津分校教諭   折笠順子

   「聴覚障害児におけるハーモニカ指導の効用について」

 ○ 福島県立須賀川養護学校医大分校教諭

                   佐久間英雄

   「須賀川養護学校医大分校における登校拒否児の指導

  と転学、卒業後の動向」

 ○ 福島県立石川養護学校教諭    小抜文雄

   「精神薄弱教育におけるパソコン利用の実践的研究」

 ○ 相馬市立養護学校教諭      佐藤美津子

   「児童生徒一人ひとりの能力と特性に応じた学習指導

  の充実」


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