レッドデータブックふくしまT 植物・昆虫類・鳥類 -327/451page
いている地域である。以前はモンキアゲハをはじめアオスジアゲハ、ウラギンシジミ、ムラサキシジミが、ここ数年はムラサキツバメの北進が注目されている。
阿武隈山地:低山地が続く中、標高1,000mクラスの山がいくつかあり、植生にも富んだところでもあることから、チャマダラセセリ、キマダラモドキ、ウラジャノメ、ツマグロキチョウが生息している。また、ウスバサイシンやカタクリの群落も見られることからヒメギフチョウの生息可能地域も局所的に残っている。緩斜面のほとんどは、すでに開墾され田畑となっているが、ブナ、イヌブナの点在する森林が残っている地域もあることから、フジミドリシジミや森林性の昆虫も見られる地域である。
中通り、阿武隈川流域:阿武隈川は県南の甲子高原を源に福島県を縦断し宮城県へと流れる。この流域は、都市化が進み、希少種は少ないが、流域面積が大きいことから建設省(現:国土交通省)の調査(1997)では2,123種の昆虫が記録されている。白河市周辺ではツマグロキチョウが確認され、県北地域では、以前はミヤマシジミが多く見られたが今はその面影がない。
奥羽山脈:福島県の中央を南北に走る標高1,500〜2,000mの山々で高所地域にはエルタテハ、キベリタテハが生息する。甲子高原にはカシワ林も残存することからゼフィルス類や草原性のヒョウモンチョウの仲間が多く生息する。ヒョウモンモドキの唯一の記録地でもある。北部ではヒメギフチョウの生息域の境になっている。
磐梯山〜会津地方西部:会津盆地を阿賀川が流れ、会津磐梯山がそびえる地域である。県内ではこの地方にだけ記録のあるギフチョウやキマダラルリツバメが生息し、ミヤマシジミも河川敷に生息している。磐梯山周辺には、湿地帯やカシワ林が多く残っており、ハヤシミドリシジミやウラジロミドリシジミなどのゼフィルス類、草原性の蝶が多く生息する。かつて記録されたオオルリシジミの産地でもあるが、残念ながら今はその面影がない。
南会津地方:特別保護地区の尾瀬があり、調査が十分でない地域もあるが、その周辺には興味のある種類が多い。黒化したフタスジチョウやオオイチモンジ、コヒョウモンをはじめ中部地方の影響が大きい地方となっている。
飯豊山地:標高1,500mを超す山がそびえるこの地域は、県内唯一のベニヒカゲの生息地となっている。またイイデクロヨトウというこの地でしか記録されていない蛾も生息している。山深く、山岳道路の開設も少ない自然度の高い地域である。しかし、年々登山者も増え、登山道周辺の荒廃も目立ち始めてきているので高山植物を含め何らかの対策が必要と思われる。
今回33種をリストに挙げたが、その他ヘリグロチャバネセセリやウラジロミドリシジミといった蝶も全国的には注目されているので、今後の調査の結果によっては、リスト見直しの際に追加されることも考えられる。
3 今後の課題
今回の調査では、調査対象種が一部の分類群に絞られていることや、調査期間が限られていたため、現地確認調査でも再度調査を必要とする種類もあることなどの課題も多い。また県内には会津地方のように、まだ手つかずの豊かな自然が多く残されている地域もあるが、全般的に各種の開発行為などによる昆虫類の生息環境の変化は著しい。
今後も、このような調査を継続的に実施することにより、絶滅のおそれのある希少な昆虫類をはじめとする県内の昆虫分布の実態解明に努めることが重要である。