レッドデータブックふくしまU 淡水魚類/両生類・爬虫類/哺乳類 - 003/122page
2 野生生物保護についての課題
(自然保護の多様化とその対応)
かつて、わが国の自然保護は、原生林等の自然度の高い地域を象徴としてとらえ、その環境全体を人間の手を極力加えないで保護することにより、その結果、そこに生息・生育している希少な野生生物も保護されるというような手法により行われてきたとも考えられる。
一方、近年はメダカやタガメなど、われわれの身近な生活環境に生息・生育していた野生生物が希少となり、その象徴は「里山」にも広がってきた。この地域は、もともと人間の生産活動の場であるため、常に人間の手が加えられている中での保全の方法が求められる。しかし、一口に「里山」といっても地域的な特性も異なり、モータリゼーションの発達により範囲も拡大していることから、これらの保全方法は多様化せざるを得ず、その手法については、生物学的視点や森林生態学的視点だけでなく、住民と一体となった地域社会学的視点からの検討が必要となっている。
このように自然保護の活動には様々な手法が用いられることとなるが、重要なのは、それぞれの対象生物について、保護活動の効果や影響についてのモニタリングを十分に行いながら進めなければならないということである。
(生息情報の公開)
野生生物保護においての分布情報はその根本をなす重要な情報であり正確な把握が必要である。なぜなら、均一に見える自然も微地形などによって分布する生物が少しずつ違っていることも考えられるからである。このように、野生生物は局地的な生態系の中で、互いに複雑な関係を保って分布しており、そのバランスが崩れることによって、それを支えている生息・生育環境そのものが改変されることになりかねない。
したがって、地域別のレッドデータブック策定などにより、希少な野生生物の生息・生育情報を具体的に把握し整理することは、野生生物保護対策を進めるうえでの最も基礎的な条件となる。
しかし、分布情報の公開はときに、採取圧、捕獲圧にも大きな影響を与える。その影響は対象となる生物ごとに違うが、特にラン科の植物に代表されるような園芸的価値が高い種やタナゴなどのペットとして価値の高い希少淡水魚類などは、情報の公開により更に強い採取圧にさらされる危険性がある。
また、一定のルールのもとで「持続的な利用」を行っている採取者・捕獲者には、希少性についての情報を公開することにより、生息・生育に影響を与えない範囲での採取や捕獲について、再考する機会を提供することにもなる。
一方、里山などに生息・生育している希少野生生物は、その希少性が気づかれないまま、開発などの人為が加えられ、知らず知らずのうちに絶滅してしまうということも考えられる。
このように、生息・生育地情報の取り扱いには、今のところ状況に応じた慎重かつ適切な対応が必要であるが、今後は生息に大きな影響を及ぼすような悪質な採取や捕獲に対する措置を講じたうえで、県民の合意のもとに、可能な限り情報を公表していくことが必要と考えられる。
(遺伝子の保全)
地域に定着している野生生物の大半は、少なからずその地域特有の遺伝子を持っているとも考え