レッドデータブックふくしまU 淡水魚類/両生類・爬虫類/哺乳類 -076/122page
3 本県における希少野生生物保護の基本的な考え方
われわれはこれまで豊かな自然環境の恩恵を様々な形で享受し、かつ利用しながら今日の生活を築いてきた。しかしながら、自然環境を構成している野生生物については、これまで保護すべきとの意識が希薄であり、所有者のいない無主物であるとの考え方が主流であった。
したがって、野生生物保護の責任の所在も明確ではなく、このことが、自然環境に対して配慮のない無秩序な開発行為が行われ、無自覚のうちに、大規模に自然を改変することにより多数の野生生物の生息・生育環境を奪い去り、絶滅に追い込む結果を生んできた背景にあるものと考えられる。
また、古来から営まれてきた生活様式においては、野生生物は有害な存在、不快な存在という側面と有益な存在、生活に安らぎをもたらす存在という功罪両面を持って生活環境の一部として身近にあった。不快な吸血昆虫を穏やかに隔離する蚊帳、多様な生物の存在を許し、結果として少数の有害生物の発生確率を低くした水田など、技術が未発達であったために産み出された知恵は、生態学的に見ても合理的な面があり、有害(と思われる)生物をも根絶やしにすることはなく、野生生物との子供の頃からの不断の接触を通して適切な距離感(つきあい方)も形成されたと考えられる。
その結果、人間と野生生物との共生関係が維持されてきたと思われるが、現代社会では、科学的、工業的技術の発達により、都市ばかりでなく農山村地域においてすら日常生活において野生生物の存在を意識する必要がなくなり、関心や知識が急速に失われた。現代人の間に急速に広がった野生生物に対する無知・無関心と効率性、経済性重視の価値観とが相俟って、野生生物に対する必要以上の圧迫が、野生生物の衰退に拍車をかけているものと思われる。
一方、自然が失われ野生生物と身近に接する機会が著しく減少した現代社会では、ペット飼育や園芸等が広まり、生き物との触れ合いにより精神的な潤いを求めるニーズが高まっている。しかし、近年、ペットの管理放棄や魚類の安易な放流等により放出された移入種等による在来種への影響が指摘される等、野生生物に対する無関心や知識の欠如等による利己的な取り扱いが新たな問題を引き起こしている。
つまるところ、『レッドデータブックふくしまT』のデータは、このような問題が複合的に絡み合った結果を示したものであるといえる。将来にわたりわれわれが、生物多様性を維持した県土の中で、その恵みを享受しながら健全な生活を営んでいくためには、野生生物に対して、次のような基本認識を県民全体で共有することが必要不可欠である。
生物多様性が保持された自然環境は、県民が生活する上での基盤となるものであり、その重要な構成要素である野生生物に対しては、これまでの「無主物」という考えを払拭し、県民はもとより人類共有の財産ととらえ恒久的に保全すべきである。また、その責務は行政をはじめ、県民すべてにあると考えるべきである。