研究資料分類基準G2-04高等学校社会科「現代社会」の研究-105/170page
資料1) 核兵器の発達核兵器は,原子核が反応する際に放出するエネルギーを,人員の殺傷および物の破壊に利用した兵器である。その破壊力は,在来の爆薬を使った兵器と比較すると,1945年8月広島に投下された最初のものでも,ウラン(U)―235の12.5キロ(ソフトボールくらいの大きさ)で,TNT火薬に換算して2万トンに相当するものであった。すなわち,核兵器は,威力が在来型の砲爆弾の100倍以上もある大量破壊兵器である。
この核兵器が戦争に使用されたのは,現在世界中に5万発といわれる数のうち,後にも先にも第二次大戦末期に,広島に投下された第二発目と長崎に投下された第三発目の二発だけで(第一発目は実験に使われた),広島に13万人,長崎に6万7,000人の死傷者を発生し,日本を降伏させる直接要因となった。
第二次大戦後は,世界レベルの大戦は抑止されてきたが,56件にのぼる局地的な戦争・紛争が発生した。この間朝鮮戦争,キューバ危機およびベトナム戦争と,核兵器が使用される危機はあったが,強大な破壊力を十分承知していることから,報復を恐れ,ひいては世界大戦にエスカレートすることを恐れて,使用されずに今日にいたっている。これは,相対峙する米国・ソ連の二超大国が,それぞれ全人類を滅亡させうる以上の総弾頭威力をもち,かつその戦力が均衡しているためである。
すなわち,第二次大戦以降30年以上の長期にわたって,地球上に大戦が生起しない,いわゆる平和な状態が継続してきたのは,この核兵器による「恐怖の均衡」があったためである。その反面,この均衡のために,核兵器は局地的な戦争・紛争が多発するのを抑止できないで今日にいたったとも言いうる。(中略)
核兵器の運搬手段は,当初は爆撃機だけであったが,弾頭の単位重量当たりの威力および運搬手段の性能が向上するにしたがって,ロケットついでミサイルといったシステムヘと進歩してきた。そして今日では,戦略核兵器は,一基のミサイルに装着しうる弾頭数力十数個におよび,それぞれの弾頭が個別に誘導されて,おのおの異なった目標に命中しうる個別誘導多弾頭型(MIRV)に発展している。
今日の戦略核兵器は,個々の弾頭が迎撃ミサイル(ABM)を回避して,個々の目標に命中しうる機動式多核弾頭型(MaRV)へと発展するとともに,現在慣性利用方式で誘導されているミサイルに,記憶させた経路と飛しょう中の経路をコンピュータを介して照合し誤差をゼロにする方向に誘導する地形照合誘導と組合わせ,ピンポイントに目標に命中しうる精密誘導兵器(PGM)へと進歩しつつある。その上,今まで主としてICBM(大陸間弾道ミサイル)のように固定基地から発射するよう設計されていたシステムを,空中を機動するか,地上を機動するか,地下または海面下にもぐることによって,敵の衛星,レーダー等の情報システムから捕捉されないで行動し,目標を攻撃しうるシステムヘと進歩しようとしている。
他方,戦術核兵器は,在来砲爆弾の威力に近づき,TNT換算数十トンの小型弾頭も可能となるとともに,たとえば155ミリ口径核砲弾のように,在来弾と発射機を共用できるまでにいたっており,今後は,さらに改良されよう。(倉田英世著『核兵器』教育社 P7〜10)