第2回全国研究集会報告書-030/60page
個を生かす学級集団形成過程の研究
―子どもの自己像をどう再生させるか―
東京都立教育研究所 主任指導主事 井上裕吉
1.研究の趣旨
学級内には,集団になじめない子ども,また,集団から逃避し孤立する子どもなど,集団適応に様々な問題をもつ子どもたちが存在する。本研究は,このような子どもたちの行動特性と不安定な自己像をどのようにとらえ,どのように指導していったらよいかを中心に,学級担任の子ともたちへの関わり方と人間関係指導の追跡的調査によって,個を生かすより望ましい学級集団の形成過程を究明しようとしたものである。
2.研究の内容
2年次にわたる研究の内容を要約すれば次のようになる。
(1)学級に円滑に適応できない子どもの,学級集団形成過程への関わり方の特徴
(2)学級集団形成過程における学級担任の評価活動の内容,及び子どもの態度変容のとらえ方
(3)自画像を中心とする子どもの自己像とその変容過程
(4)人間関係指導における学級担任の役割と機能
3.結果と考察
(1)子どもの初期の不適応状態は,学級内の心理的結合の弱さ,学級集団への所属感,満足感の欠落等によって誘発されやすい。
(2)学級内で不適応に陥っている子どもは,学年が進むにつれ,行動上の問題点が定着化,もしくは固着化しやすい。特に,適応に困難な子どもは,全体的に友達との摩擦,トラブルが継続しやすく,不安定な自己像から脱皮できない傾向が強い。
(3)不安定な自己像をもつ子どもは,一般に自己表現能力が十分に生かされず,その言語活動も極めて消極的か,極端に攻撃的か,のいずれかに片寄りやすい。
(4)個を生かす学級集団を形成していくためには,学級担任が,まず魅力的な学級像(集団像)を描き,一人一人の子どもに,集団的個としての自覚と生き方を培い,育てていかなければならない。そのために,個の特性を生かす役割活動を一層充実していく必要がある。
4.まとめ
(1)不安定な自己像から安定した自己像へ変容させること,健全な自己を自らの手によって再生させることが,一人一人の子どもの集団適応を,より円滑なものとしていく基盤となる。
(2)個を生かす学級集団形成過程の実践事例研究では,小学校低・中学年段階で,その指導の成果が著しい。小学校高学年,中学校段階では,子ども自身が不安定な自己像に執着しやすく,指導上,難しい課題を残す場合が多い。小学校低・中学年段階での指導が特に重要である。