第2回全国研究集会報告書-048/60page

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(4)講演〔要旨〕

自己像の形成と教育

生涯学習研究センター 理事長 新谷政一

〔全国教育研究所連盟副委員長〕

 ご紹介いただきましたアラヤでございます。本日は,全教連共同研究全国研究集会において,このような機会を与えていただき,たいへん光栄に存じております。

 私は,青年期を戦時下で過ごし,明日をも知れぬ日々でしたので,多少は哲学書や仏典に親しみました。深くとらえることはできませんでしたが,『唯識論』に出遇うことができてよかったと思っております。人間はどのように物事を認識するのか,このことについて唯識論では,耳鼻眼舌身意つまり聴嗅視味触覚および心象といった感覚的なもののほかに,自我に固執する末那識と我執を脱却した宇宙的意識ともいうべき阿頼耶識(アラヤシキ)とがあるとしています。そしてこの阿頼耶識こそが人間の認識作用として最も深く尊く,いわば生命の源泉ともいうべきものだ,と説いております。私は子どもの頃,アラヤという名字が嫌いだったのですが,人間の心はまことに微妙なもので,阿頼耶識を知ってからは自分の名字に誇りを持つようになりました。そしてこの素晴しい名字に相応しい人間になろうと考え,古稀を迎える今日まで努力してまいりました。

 私は,子ども達はみなそれぞれに,どんな子どもも,自分の尊厳や価値に気付き,自分の人生に希望を見出す芽を宿していると思います。そして私たち教育に携わっている者は,子ども達に開眼の契機を与えるというか,触発できる立場に置かれていると思うのです。どうか「自己像の形成と教育」という演題にさせていただいた私の意図をお汲みとりくださって,ご一緒にお考えいただきたいのです。

 私はいま,この場に臨んで,全教連をこよなく愛されて,その発展に情熱を注いでくださった先達故平塚益徳先生のことを思い浮かべております。平塚先生は,比較教育学の泰斗として,その進展に大きな足跡を残されました。常に世界的視野から教育のあり方を考察されて,数々の貴重な提言をされました。いま日本の子ども達の生活はどうなっているのでしょうか,仕合わせなのでしょうか。私は,諸外国の子ども達の生き方と比べてみる必要を痛感いたします。広く平界に眼を向けて子ども達が人間らしく育つ教育を,社会全体で実現しなければならないと思います。

 私は最近,朝日新聞論説主幹の松山幸雄さんから,『イメージ・アップ』という近著を頂戴しました。とても示唆に富む内容の本ですが,真中に芯があってまわりに木(気)をつかう『エンピツ型人間』のことや,「挫折回復能力」の育成,詰め込み過ぎて余裕のない「はりがま教育」の弊害などの指摘に共感を深くしました。松山さんは,外国人と接する時に相手から正当に評価されるような表現力を養うことや,国際的に通用する人間性を身につけることを力説されています。私は,自国の文化や伝統を正しく認識すること,自分とは異質な文化や伝統に対する寛容性を身につけることが,国際化の第一歩と思うのですが,いかがでございましょうか。

 現在,私たちは,全教連の共同研究「個を生かす教育指導の在り方に関する実践的研究」に取り組んでおりますが,この研究は,教育基本法に示されている「個人の尊厳」・「個人の価値」にか


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