1 新しいメディアと美術教育
(1)新学習指導要領に示された指針
現代の視覚文化は正に百花繚乱といえるでしょう。私たちは日常的に様々なメディアを通じ,新しい表現に触れています。現在,そして今後のメディア社会において,学校教育では生徒たちにどのような資質や能力を育てればよいのでしょうか。新学習指導要領にその指針を見ることができます。
新学習指導要領では,高等学校芸術科美術の表現領域に,「映像メディア表現」という新しい分野が加えられました。鑑賞の領域においても,このことが項目化されています。また,中学校美術科では,写真,漫画,ビデオ,コンピュータ等,新しいメディアの活用が示されています。これらのことから,現代の社会に必要とされる,ビジュアルな表現能力の育成やメディア・リテラシーの獲得が,美術教育に期待されていることが分かります。
芸術科美術の表現領域における分野の改編
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新学習指導要領
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絵画・彫刻 |
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デザイン |
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映像メディア表現 |
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(2)コンピュータを利用したビデオ作品の制作
「映像メディア表現」の分野においてぱ,今後様々な教材が開発されると思われますが,高等学校学習指導要領解説芸術編では,その学習内容がより具体的にあげられており,写真やビデオ,コンピュータ等の機材が,その中心的なメディアとして位置付けられています。また,これらを利用した,動的,時間的,物語的な手法や,画像と音声の併用などを考慮した表現の構想が,指導のポイントとして示されています。
コンピュータ・グラフィックと呼ばれる平面作品の制作は,いまや美術の授業では目新しいものではありません。また,時間的要素をもった作品の制作は,イラストレーションや模型などをビデオカメラでコマ撮りしてアニメートする手法などが今までにも試みられてきました。しかし,ハードウェア,ソフトウェアの進歩により,ビデオで撮影した映像データ等の素材もコンピュータで簡単に扱えるようになったことなどから,今後はコンピュータを利用した映像作品に関する題材の研究・開発,実践も少しずつ広まって行くものと思われます。
マルチメディアという言葉が登場して久しくなりますが,形体や色彩といった従来の造形要素に加え,映像や音楽等も加えた総合的な表現手法は,「映像メディア表現」の新設がもたらす美術教育の新たな展開といえるでしょう。