『生きる力』を育てる指導と評価の 実践事例集 平成14年9月-035/142page
(2) 三味線の基本奏法
三味線の演奏は,勘所(かんどころ)(ポジション)を正しく押さえることと撥で弦を弾くことの2つを同時に行わなければならないため,初心者は難しさを感じてしまいます。そこで,まず撥を持たずに勘所を押さえながら,ギターのように指でつま弾く方法※1で基本奏法を学習しました。また,三味線の棹には勘所の目印になる譜尺(ふじゃく)を貼りました。三味線の基本奏法では,2人で1棹(さお)を交代しながら使いました。
〈勘所に集中し,撥を持たずにつま弾く様子〉このつま弾きによる奏法により,比較的短時間で練習曲の『さくらさくら』を演奏することができました。その後,撥での演奏方法を学習しました。
※1 和楽器のやさしい教授法について研究している日本音楽演奏家の杉浦聰氏による方法。
(3) 『寄(よ)せの合方(あいかた)』(歌舞伎『勧進帳』より)の演奏
授業では,歌舞伎作品の中でも物語が分かりやすく親しみやすい『勧進帳』を主な教材にしました。中学校での鑑賞教材としても取り上げられることが多い作品ですが,随所に三味線の豊かな表現力を感じ取ることのできるのも魅力の一つです。今回の授業では「旅の衣は篠懸(すずかけ)の〜」で有名な長唄の途中に出てくる三味線と鼓による『寄せの合方』の部分を実際に演奏しました。
ビデオで演奏する部分を鑑賞した後,三味線の奏法譜を見ながら音とリズムを伝統的な習得法である口唱歌(くちしょうが)※2で把握していく活動を行いました。教師が三味線を弾きながら範唱を示し,生徒がそれを繰り返して歌い楽器で弾くという形態で少しずつ区切りながら練習していきました。生徒は,口唱歌が旋律や奏法によって変化していく面白さを体験することによって,和楽器における非常に有効な習得手段であることを感じ取っていました。
※2 楽器の旋律やリズムに一定の音節を当てて口で唱えるもので,音高や奏法によって変化する。箏の場合は「卜ン・テン・シャン」など,三味線の場合は「トン・チリ・レン」などという。日本の伝統音楽では口唱歌を基本とし,師から弟子へとロ伝(ぐでん)によって伝えられてきた。近代になって西洋音楽の影響を受け,奏法譜などが考案された。