『生きる力』を育てる指導と評価の 実践事例集 平成14年9月-040/142page

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富樫 それは,こちらで留めたのです。
弁慶 どうして留められたのですか?
富樫 あの下男がある人に似ていると言う者がいたので,引き留めたのです。
弁慶 何ですと,人が人に似ていることはよくあること。一体誰に似ているというのでしょうか?
富樫 「判官(ほうがん)(義経)殿に似ている」という者がいるので,はっきりするまで留まってもらいます。

イラストガイド歌舞伎「勧進帳」

弁慶 何,とんでもない!判官殿に似ているとは。一生の思い出になることよ。腹が立つ!!日が沈まないうちに能登の国(石川県)までたどり着くはずだったのに。たいして重くもない荷物しか背負ってないくせに,ぐずぐずしているから怪しまれるのだ!前から憎らしい奴だとは思っていたが,案の定だ。思い知らせてやる!
長唄♪金剛杖を取り,(義経を)さんざんに殴りつける。
弁慶 何とお願いしようとも,通していただくことは……。
番卒 できない。
弁慶 疑いを晴らすため打ち殺してみせよう。
富樫 早まってはいけない!番人が見間違えから,判官殿でもない人を似ていると言っただけのことなのだから。疑いは今,晴れました。さあさあ,(関所を)お通り下さい。

イラストガイド歌舞伎「勧進帳」

シーン3 安宅の関を何とか通過し,山中に来た義経一行は,休憩を取る。ここで弁慶は主人を助けるためとはいえ,杖で打ち殴ったことを深くわびる。それに対し,義経はとっさの素晴らしい判断だったと弁慶をほめ,礼を言う。その言葉に弁慶は涙する。
   <聴きどころ>山中での弁慶と義経の心情を表す三味線の響きと長唄。

生徒は歌舞伎の世界に強く引き込まれ,熱心に鑑賞していました。歌舞伎鑑賞後の生徒の感想です。

○ 初めてじっくりと見た。喜怒哀楽が激しく,声や顔の表情すごかった。
○ 言葉はかなり難しかったが,実際に演じてみて,だいたいの内容が分かった。
○ 授業で三味線をやったこともあり,興味深く見ることができた。
○ 機会があれば,是非生で見てみたい。

 

4 おわりに

 今回は,三味線と歌舞伎を題材にして授業を実践しましたが,授業後には生徒の伝統音楽や伝統芸 能に対するイメージが変わり,興味.関心も高まりました。知識面や鑑賞活動にとどまることなく,実際に表現活動に取り組ませることで,伝統音楽や伝統芸能の面白さや素晴らしさを感じさせることができました。

 しかし,現状では,伝統音楽を授業で実践するために必要な楽器が各学校に整備されていないという問題もあります。楽器を保有する近隣の学校との連携や,逐次計画的に整備を図ることで実践が可能になります。また,教材研究とともに教師自身の研修を深めることも必要ですが,地域に指導できる方がいれば協力を得ながら実践していくことも考えられます。

 

<参考・引用文献>
 ○ 杉浦 聰   著  『教育音楽中学高校版』連載『30分であなたも和楽器が弾ける』 音楽之友社
 ○ 野口 啓吉 著  『やさしく学べる三味線入門』 全音楽譜出版社
 ○ 竹本 幹夫 著  『対訳で楽しむ安宅』 檜書店
 ○ いまい かおる 著 『イラストガイド歌舞伎入門』 KKロングセラーズ


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