『生きる力』を育てる指導と評価の 実践事例集 平成14年9月-047/142page
小学校 理 科
知を創造する理科の授業作りの工夫
〜第5学年「もののとけかた」の実践を通して〜 佐 藤 陽 一
1 はじめに
昨年度の研究では,概念形成を目指した授業によって,学級全体として妥当な科学概念を獲得させることができました。しかし,授業後3ケ月が経過すると,その中の2割以上の児童が,授業前に持っていた妥当でない既有概念を強化して保持していることが分かりました。これは,授業を通して学級全体として創られた概念と,一人一人の中に創られた概念とが,同じものではなかったためと考えられます。
そこで,授業によって創られる様々な概念,解釈,態度等を「知」ととらえると,知には,その集団内に共通して創られる「社会的な知」と,個人内に創られる「個性的な知」の2つがあると考えました。したがって,授業においては,児童一人一人と集団とのかかわり方にもっと目を向けていきながら,児童がより合理性のある「個性的な知」を創ることができるように工夫する必要があるのではないかと考えたのです。
ここでは,このような知を創造する実践例と分析の仕方を紹介します。
2 「社会的な知」と「個性的な知」の創造
この2つの知は次のような段階を経て創られるのではないかと考えました。
第1の段階は,個人がそれぞれ,学習の前に既有概念を持っている段階です。ここでは,それぞれの児童が,事象に関わる見方や考え方,解釈や態度を持ってます。これらには,同一の部分もあれば,異なる部分もあるのです。第2の段階は,それぞれの既有概念を集団の中で表出し,違いを検討することで,自己の持つ概念に気付き,知として自覚する段階です。ここでは,主に話し合いを通して,それぞれの既有概念には同じ部分と異なる部分があることを確認しながら,自らの持っている概念の輪郭を明確にしていきます。児童一人一人は,ここで初めて自己の持つ概念に気付き,意味を持った「知」として自覚することができるようになります。