『生きる力』を育てる指導と評価の 実践事例集 平成14年9月-048/142page
第3の段階は,それぞれの知の異なる部分に目を向け,その妥当性について集団の中で協同して検討することで,集団として共通に認識できる「社会的な知」が生まれる段階です。この「社会的な知」を創造する活動に一人一人が参加することで,自らの知を再び振り返る必然性が生まれ,これに検討を加え,自ら合理性を付加することで個人の中に新しい知が創造されます。ここで重要なのは,共通に認識された「社会的な知」の内,個人にとって意味のある部分のみが知の中に取り込まれるので,個人の中に創られる知は個性的であるということです。したがって,個人の中に創られる知を「個性的な知」としました。
第4の段階は,こうして2つの知が,拡張され,創造されながら単元の学習を終えると,それぞれがある一つのまとまりを持つ段階です。しかし,この2つの知の間にはずれがあり,必ずしも同一ではありません。
第5の段階は,授業を離れ,時間をおくことによって,「個性的な知」がさらに個性化し,長期間保持されるものと保持されないものに選別されていく段階です。ここでは,その知が自分にとって有用であるかないかの価値判断により,日常の生活や知識と関連付けられて,統合されたり,分化されたりします。あるものは科学概念の基礎となり,あるものは教科を超えた学び方となり,あるものは仲間との関係作りの基盤となり,あるものは捨て去られます。
本研究で明らかにしようとしていることは,「『社会的な知』を創る授業はどうあるべきか」と,「『個性的な知』はどのように創られるか」の2つです。
3 「概念検討型の授業」
ここでは,社会的な知を創造するために「概念検討型の授業」という方法を取り入れました。
児童はこれから学習することに関して,ある考えを持っていてもそれに気づいていない場合が多いのです。まず初めに自分の考えに気づかせるために話し合いを行います。意図的な事象提示や発問によって,一人一人の考えを図示し説明することで明らかにします。この考えに「とうめい説」のように考えを代表するキーワードによるラべルを付けて検討可能な概念として同じステージにのせます。そして,それぞれの説について話し合いを行うことで,対立する論点を見つけていき,それを学習のテーマとするのです。以下,「考え」「方法」「こうなるはずだ」まで個人ごとあるいは,班ごとに発想します。
次に,それぞれに発想した実験を行い,「結果」をまとめ,テーマに対する「結論」を導きます。
最後には,発表し合い,集団として共通の解釈や見方を創っていき,授業の「まとめ」とします。このときの解釈や見方,それぞれ行った方法などが「社会的な知」として認知されたものとなります。このような授業をするためには,事前に子供の考えを見極めること(診断),それを基に授業構想を立てること(立案),そして,知を創っていくこと(実践)の3つが必要であると考えました。