『生きる力』を育てる指導と評価の 実践事例集 平成14年9月-056/142page
な児童であっても,この授業によって「まだある」「また復活する」のように,「個性的な知」は必ずしも妥当ではありませんが,少なからず合理性を付加して発達したと見ることができます。
さらによく調べてみると,これらの児童に共通していることは,事前に妥当でない考えを持っているということの他に,次のいずれかにあてはまることが分かりました。
・ 「目に見えなくても『ある』」ということを,すでに理解している他の事象に置き換えてとらえられない。
・ 「雪説」のように,溶解の現象を具体的な事象に置き換えてとらえているが,それをさらに他の事象に置き換え直すことができない。以上のように,「個性的な知」を保持するためには,新たな事象を,どのような既知の事象に置き換えてとらえられるかということが,大変重要になってくるといえます。
9 おわりに
小学校学習指導要領解説理科編(平成11年5月)では,今回改訂された「見通しをもつ」ことの意義について,自己責任による活動の場の保証,予想と結果の一致,不一致の明確化,科学に対する考え方の転換の3点を指摘しています。
今回行った授業では,この3点について,次のように具体化できます。
「概念検討型の授業」では,それぞれの考え方の相違点を明らかにし,この相違点に着目した授業を展開します。このため,共通の問題意識の上でそれぞれの考えについて理解し合うことが可能となり,自ら発想し,説明し,結論付けるなどのカを伸ばすことができます。また,児童は「自分たちで方法を考えること」や「予想を考え,それが当たっているかはずれているか考え実験すること」に対して「楽しい」と答えています。このように,予想や方法を自ら発想することで,自己責任による活動の場を保証したり,予想と結果の一致,不一致を明確にしたりすることができます。
またここでは,児童の中に創られる知を「社会的な知」と「個性的な知」の2つに分けてとらえてみました。すると,理科の授業とは,自然の特性について集団による共通の見方や考え方を創る(「社会的な知」の創造)行為であるととらえることができます。そして,児童の中には,自然の事物・現象の性質や規則性,真理などの特性は,自分たちが創るものだという意識が生まれます。このように,授業において共通な「社会的な知」を創ろうとすることで,科学に対する考え方の転換を図ることができます。またこのことで,その学習がその児童にとって,どんな意味があるのか(「個性的な知」の創造)という視点で授業を考えることができます。
今後は,さらに「個性的な知」の創造に目を向けていき,個人内での知のネットワークの中に,学習の内容がどのように位置付けられるのかについて明らかにする必要があると考えています。
<参考文献>
○ 松森靖夫著 『新教育21シリーズ 新しい評価法はこれだ』 学校図書