研究紀要第6号 学習指導改善に関する研究 理科実験 - 016/036page
粒子運動の関係をとらえ,物質とエネルギーについて,初歩的な考察をさせるところにこの教材のねらいがある。
(1) 相変化とエネルギー
0℃の氷に熱を加えても,氷がとけつつある間は水温が上昇しなかったり,100℃で沸とうしている水へ,絶えず熱を加え続けても,温度は一定値を示し,さかんに水蒸気がでている。このような現象を氷の融解曲線,水の加熱曲線をもとにして,熱の働きが温度変化以外に相変化をおこさせることを理解させる。
また氷が水になり,水が水蒸気になるには熱量を吸収しなければならないことを,融解熱,気化熱の測定をもとにしてとらえさせ,氷に比べて水,水に比べて水蒸気は,吸収した熱量だけ,エネルギーが高い状態にあることを理解させる。逆にP−ジクロルベンゼンなどの凝固熱から,吸収した熱量を放出して,エネルギーの高い状態からもとの位置(固体のときのエネルギー)にもどることを推察させるようにする。
このために,たとえば,沸とうしている水に熱を与えているのに,水蒸気がでている間は温度が一定である。与えた熱はどうなったのだろうか。
−水とアルコールの気化熱に違いはないだろうか。−水の気化熱と氷の融解熱を比べるとどうだろう。その違いはどうしてだろうか。というような課題をなげかけながら学習をすすめることが必要であろう。
(2) エネルギ-(内部エネルギー)の高低
測定した融解熱,気化熱を次のような図をかかせることにより,物質の種類・状態によって,エネルギーの高さが異なることが理解されよう。
〔1gの物質について相変化に伴う熱の出入〕
(3) 分子の結合の状態とエネルギー
物質の状態によるエネルギーの高低の違いを,次のようなモデルや実態モデル(分子運動モデル)などを使って,固体・液体・気体でその結合状態がどのように変わるかをエネルギーと関連づけて考察させる。
〔固体〕 〔液体〕 〔気体〕
状態の変化における,分子間の引力をたちきるに何が必要かという点からエネルギーと関連させてとらえさせるようにする。
(4) 測定の指導
実験データから氷の融解熱を求める場合,生徒は困難を感じたり,誤りをおかすことが多いので,たとえば,"水の失った熱量はいくらか。"その熱量は何に吸収されたか。"氷がとけてできた水に吸収された熱量はいくらか""氷1gがとけるために吸収した熱量はいくらか"というように,段階を追って考えさせていく必要があろう。また実験で誤差を大きくする原因についても話し合う必要があろう。−ジクロルベンゼンの融解熱は文献値と10calほどちがうがこの方法ではこれ以上どうにもならないようである。
V おわりに
ここでは,測定実験であるので,誤差の処理・解釈,グラフ化などの科学の方法の指導にも十分留意してすすめることになるであろう。
別な機会に化学変化とエネルギーについてとりあげたいと考えている。十分意のつくせない点があるが,今後授業などを通して更に検討を加えたいと,思っている。