研究紀要第6号 学習指導改善に関する研究 理科実験 - 023/036page
高等学校教材ショウジョウバエによる遺伝の指導
大 原 正 男
T はじめに
従来,遺伝単元は生徒も非常に興味をよせるところにもかかわらず実験をする場合,一般に長期間要することと,遺伝的に純系なもの,入手が仲々困難なことなどから,どちらかといえは講義だけで終えがちである。その点ショウジョウバエは一世代(one generation)が非常に短く,簡単な装置でどこでも飼育でき,容易に交配させ,一度に数多くの子を得られ,さらに種々のmutantもあり,その上だ腺染色体の観察など,遺伝教材として最適の材料といえる。そこでショウジョウバエの飼育の基本的なことにも触れ,普通,学校でとり上げ得る交配実験の追試をし,推計的手法としてx2検定などを試みてみた。
U 実験・観察
1.採集と飼育について
この昆虫は亜熱帯原産でショウジョウ科に属し,体長2〜3o,赤い目,酒,酢,イーストなど発酵匂を好み,世界では1,000種,日本では80種,人家性………キイロ,クロ。野外性………キハダ,オオ,マダラなど,なかでも普通用いるのはキイロキョウジョウバエD.melanogasterで,1910年Morganが自眠wのMutantを発見してから急に研究が進められ,vg.e.y.b.mなど数多くのmutant染色体地図,だ腺染色体,人工突然異変,さらに進化など巾広く使われている。しかも一世代のラ
イフサイクルが非常に短いのがなにより好都合で25℃で10日前後が普通である。
図1
○採集は5月中旬〜11月中旬まで,果樹園,台所やごみ捨て場のまわりに群り日の出1時間後か日没1時間前ぐらいに一番多く採集できる。トラップ法(Trapping),スイーピング法(Sweeping)でとるが,遣伝交配に用いる場合は,大学,研究機関から系統のはっきりしたものをゆずってもらった方が得策である。
○飼育は25℃位が適温なので冬期,盛夏期は温度の加減に工夫を要するが他はその必要なく年中通して容易に飼育できる。餌の作り方にはいろいろあるが,要するにハエはイーストを食物にしているのであるから,何を培地にするかによって決まる。簡単にパンをミルクで煮てイーストを落しただけで幾代も飼っている記録もある。カビやバクテリアの浸入を防ぐため,飼育ビン,線栓,とまり木などは前もって殺菌する必要がある。当センターでの餌の処方は,次の通り
図2