研究紀要第6号 学習指導改善に関する研究 理科実験 - 027/036page
4 だ腺染色体の観察
キイロショウジョウバエは2n=8で染色体数が少なく,連鎖群が少ないのが遺伝の追求に適当であるとされている。そしてこのだ腺染色体の枝の長さは,X染色体は220uで537,第IU染色体は215uと245uで全長460u,1032,第V染色体は210uと275uで全長485u,1047,第W染色体は15uで34,計2,650の横しまを持ち,普通の体細胞の染色体の全身が7.5uであるのにだ腺染色体ではおよそ1,180uで157倍長く,幼虫のだ腺染色体は決して分裂することなく変態の初めに退化してしまうと報告されている
準備 顕微鏡一式解剖顕微鏡 酢酸カーミンか酢酸オルセリン,柄付針など
ショウジョウバエの幼虫の前部気管の伸長状態
(a)1齢(b)2齢(c)3齢@ 幼虫はよく肥育させた3令の蛹化直前のを用いる。なお肥育するには酵母を多くした飼育ビンの中に,数少なく(1ビン10匹程度)温度をやや低くして飼育するとよい。蛹化のために飼育ビンの壁に登りはじめるのを生理的食塩水(0.6%)1〜2滴落したスライドグラスの上にとる(低張液の方が染色体がよく拡がってよい)
A 解剖顕微鏡で観察しながらだ腺をとり出す。両手に柄つき針をもち,一方は幼虫の頭部に,もう一方はからだの中央をおさえ静かに直線状に左右に引き離すと,頭部の方に透明な1対のだ腺がついている。
B 気管,脂肪体その他不用のものを注意深く取り除く。この場合暗視野にしてみると他の部分と区別し易い。
C 1NHC1に30秒〜1分ぐらいつける。
D きれいなスライドグラスにだ腺を移しその上に酢酸カーミンか酢酸オルセインを滴下し10〜15分おく。だ腺が紫黒色に染色されて来る。(酢酸オルセインは1%より2%の方が染りがよい)
E カバーグラスをかけ,その上をろ紙でおおい,カバーがずれないように一様に力を加える。プレパラートが良否はこれにより決るといわれる。
F 顕微鏡で(×400以上)よく拡がった染色体,特にしま模様,枝数,大きさなどを観察する。
G カバーの周辺を封剤で封じておくと3〜6カ月はもつ。
キイロショウジョウバエ(♂)の連鎖地図
V おわりに
このたびの教育課程の改訂により遺伝教材は中学校から殆んどが外され高校に移る結果になり,高校でも,生物Iでは遺伝に関してはより基本的な面にも触れざるを得ず,また生物Uでは課題研究を課するのが望ましいとされている。ショウジョウバエは教師の創意工夫により巾広く多目的に活用し得る教材であると思う。
〈参考文献〉 駒井卓 ショジョウバエの遺伝と実験 培風館 科学の実験 生物デモ実験の新しい進め方 共立出版 BSCS生物 その他