研究紀要第6号 学習指導改善に関する研究 理科実験 - 032/036page
化学反応の進行にともなう反応の速さの変化
大 和 田 寅 弥
T はじめに
化学反応の進行によって,反応系,生成系の濃度は刻々と変化する。化学反応の速さも,濃度変化の影響を受けて変化するが,影響のされ方は,化学反応の機構にかかわり,さまざまである。高校段階で,化学反応の機構に深く立ち入ることはできないが,化学反応の進行にともなう化学反応の速さの変化の測定などにより,反応機構と反応の速さのかかわりに気づかせることは必要であろう。新指導要領では,多段階反応,律速概念などにふれながら,化学反応の速さを取り扱うようになった。反応の進行にともなう反応の速さの変化を,典型的な反応の型(一次反応,0次反応,自触反応など)によって比較することは,そういったことへと発展させるための糸口になるとも考える。 そういった意味で,二,三の測定をおこなってみた。
U 過マン酸カリウムのぎ酸による還元の速さ(凝一次反応として)
1.測定の目的
過マンガン酸イオンはぎ酸イオンによって,次式のように還元される。(文献1)
ぎ酸を過剰にしてこの反応を進行させ,の濃度を光電比色計で追跡し,測定結果から,の消失する速さと,の濃度との関係(凝一次反応)を考察する。
2 測定条件の検討経過
(1)過マンガン酸カリウム水溶液とぎ酸だけを反応させた場合は,の赤紫色は約10分で消えるが,コロイド状に生成するマンガン酸化物のため,溶液が不透明・茶かっ色となり,の比色定量がむずかしい。(混合した際のぎ酸の初濃度10-2M,の初濃度10-4M,溶液のpH2.8)
(2)とぎ酸を,硫酸酸性(硫酸の濃度10-2M〜10-1M)にして反応させた場合の測定結果は図1のようになる。途中から逆に吸光度が増加するので,やはり,比色定量はできない。反応の速さは,ぎ酸とだけを反応させた場合よりも遅い。(3)濃度1M以上の硫酸酸性にして反応させた場合は,茶かっ色の生成物ができず,の比色定量に都合がよい。しかし,測定例(表1)のように反応の速さが遅く,教材として不適当である。また,Mnは酸化数Uの状態まで還元されるのので,前記の反応式は適用できない。
表1 硫酸の濃度lMの場合の測定例(530mμ) 〔〕=1.8×10-4M,〔ぎ酸〕=1.0×10-2M
時間 1分後 30分後 60分後 19時間後 吸光度 0.45 0.42 0.40 0.14(4)pH緩衝溶液としてK2HPO4水溶液,または,KH2PO4水溶液を添加し,pH値を7〜3にして反応させると,(1),(2)のような現象(コロイド状のマンガン酸化物の生成)も起こらず,反応の速さも適当のようなので,この条件によって,測定をおこなうこととした。
3 測定の方法
(1) 試薬
3×10-2MKMn04水溶液,1×10-1M HC00H水溶液,1M K2HPO4水溶液,1M KH2PO4水溶液