研究紀要第19号 児童・生徒の発達の特徴に応ずる教育 - 031/032page
3.まとめ
「児童・生徒の発達の特徴に応ずる教育」で今年度は,家庭生活の基礎技能の発達にスポットをあてて眺めてみた。したがって@現在の子どもの傾向,A基礎技能の実態,B家庭科・技術家庭科の学習状態とCその関係調査を実施してみた。
第一は,要約すると昨今の子どもたちは,時代の進展にともない成長の加速度現象が,いたるところに感じられるし,家庭生活の基礎技能の発達をみても,時代の変化と環境が影響してか,戦前と戦後の発達に相違点がある。
例えば,マッチのすり方,小刀の使い方は発達の遅れてきた面だが,客の応待,電話のうけ答え,計画的にものを買うなどは,比較的早期に発達するが,発達による個人差とズレがでている。学年では,6〜7学年の技能のひらきがでている点をみても,現在の子どもを正しく理解するために,基礎となる身体的,心理的,社会的の要因を追調査する必要と児童・生徒の観察と分析を充分に行うことが必要になる。
また場面を設定したなかで検査するという形から一歩進み,授業のなかで,自然に活動している姿から,実態をつかむことが,より大事になってくるだろう。
第二は,教科の学習と子どもの学習態度との関連をは握することの必要性を痛感した。
教師と母親と子ども,子どもと子どもの関係,子どもと環境のなかで,子どもは単なる刺激の受け手ばかりでなく,送り手となって母親に影響を及ぼしているとみるべきである。これまでの研究では,子どもは教えられるもの,刺激をうけるもの,と扱われてきた。今後の実態調査を進めていくにあたって基礎資料としての研究に,子どもと教師の条件を分析しながら研究を累積していきたいと考えている。
第三は,児童・生徒の心身の発達にはへだたりがみられるようである。
ほとんどの人に同じ程度の技能を得させることは理論上可能だが,実際には教師の指導力,教師と子どもの時間的労力的制約から不可能に近い。
従来は,男女同年齢,地域などで,何学年の子と平均的な見方が多く,子どもの独自性や特殊性が問題にされなかったように思われるが,今後はそれぞれの子どもに最もふさわしい個性的な発達と技能を体得さすべきである。そのため平均基準にあてはめて児童・生徒を眺める便宜的手段を改めて「真の技能の獲得」の観点から,各自の違いを認め,それに適した道を求めるべきである。
さいごに成長発達のサイクルと教育のサイクルの同調化をはかり,前もって予想される発達を描くこと−子どもにある操作・働きかけを行ない,それを学習させることによって育つ技能を期待する。それは,学習によって創造される生活を進めると同時に,学習指導の多様な試みを再検討していく時期にあるといえる。
ただ“児童・生徒の発達に即し,適性に応ずる教育”と叫んでも,実質的に機械均等だと叫んで個人の違いに目をむけることに消極的な教師も多い。
調査結果から「個人ひとりひとりに目のとどく教育はどうか」を考え,さらに個人の尊厳を認め自己卑下や劣等感の除去にふさわしい教育をみんなで検討し,個別化指導がいっそう充実されるよう望まれる。
W むすび
「児童・生徒の発達の特徴に応ずる教育」
−家庭生活に関する技能の発達について−1年目の研究課題を終了したが,次年度は「能力開発における学習指導」と結びつけて考えてみたいと思う。また,各センターでも。学力,能力の適性,体力,運動面などから,研究が進められているが,このことは,人間尊重,人間性の回復など時代の要請と相まって,画一的,詰めこみ教育への批判と反省の現われとみてもよい。
いいかえると,すべての子どもに学習内容を定着させるために,子どもの能力や個人差,特性に応ずる指導の改善が急務である。