研究紀要第20号 高校生の精神衛生・特に自殺および自殺未遂行為に関する考察 - 014/021page
18 自殺(未遂)生徒のクラブ所属
クラブ 美術 計算尺 英語 文芸 商研 演劇 蹴球 卓球 野球 柔道 なし 計 人 数 1 1 1 2 1 1 2 2 1 1 4 1719 両親の養育態度
過保護 過干渉 過剰期待 無 視 拒 否 溺 愛 普 通 不 明 父の養育態度 1 0 3 1 1 1 5 5 母の養育態度 5 0 3 5 0 1 2 1(8) 自殺(未遂)生徒の両親の養育態度
自殺(未遂)生徒の家庭の養育態度は,表19に示したとおりの結果をえた。これによれば,母親の過保護傾向および無視傾向が圧倒的に他を抜きんじている。
母親の過保護傾向は,青年期になって生ずる母親からの精神面での離乳,独立の欲求を阻害し,強い葛藤を引き起すといわれている。
また,無視傾向は,私は誰にも愛されていないだめな人間だという無力感を集積させ,やがては精神的な強い圧迫を受けることによって,重篤な精神障害を引き起す。このような点から,両親の養育態度が自殺に大きな力となって作用していることが明確にうかがえた。
(9) 自殺(未遂)の予知および自殺(未遂)行為の学校への連絡
ある生徒が,自殺をするかも知れないということを前もって予知していた人がいたかどうかは,自殺(未遂)の予防対策を考えるうえに,まことに大事なことである。しかし,上記17名の自殺(未遂)高校生については,わずかに2名(11.7パーセント)についてのみ予知者がいたに過ぎない。しかもその予知者は友人であり,教師や家人でないということは,今後学校がとるべき自殺予防対策にとって,重要な意味あいをもつものである。さらに,自殺行為や自殺未遂行為が行われたあとでの学校への連絡は,家人よりが最も多く 11名 64.7パーセント,その他は,警察,近所の人 会社(定時制生徒の勤務先)などである。したがって,家庭との常日ごろの連絡が最も重要であることが,ここで再確認された。
(10) 自殺(未遂)に対して各学校がとっている予防処置および対策指導−秘密保持・他生徒への脱明
自殺未遂を引き起した生徒を,引き続いて学校で指導の手を加えながら学習させる場合には,表20において第一位にあげられたとおり,秘密の保持が最も重要と考えられている。
他の生徒たちによる流言や失言によって,自殺未遂生徒が再び自暴自棄に落ち入り,再び自殺行為を繰り返したり,他の生徒たちの好奇の目に耐えられずに,登校を拒否したりするようになることを防がなければならないし,さらに,自殺行為というショッキングな刺激が,他の生徒の自殺念慮に拍しゃをかけるようなことがあってはいけないとする意見が最も多かった。
仮に,自殺(未遂)行為が新聞紙上をにぎわしてしまっていたり,生徒間の風聞となってしまったりしていて,大半の生徒たちがその行為のあらましを知っている場合には,あらゆる方法を使って,できる限り正確に事実を掌握した上で,他の生徒に不安を与えないような配慮をしながら,概かつ的に説明するのが望ましいという意見も見られたが,これは,まったく当然のことといえる。
なお,自殺者が出た場合にも,死者にむち打つような言語をつつしませる指導ばかりでなく,死者の行為を賛美するような言動を取らないよう十分に指導すべきである。