研究紀要第22号 児童・生徒の学習能力の発達 学習能力の発達と授業の研究 - 030/062page
一見して明白なように,殆どの児童が類似形を示している。8番・15番の児童は,歌唱と器楽が他領域に比べてすぐれているために,測定総合点との開きができたものと推測できる。また,男子にくらべて女子のグラフに開きが多く見られるのも,表現能力がすぐれているためである。
(2) 個人別能力測定表(プロフィール)の考察
A校 5年1組(8)番
上の表は,測定児童の一例である。集計らんの空白部分が「冬げしき」を学習するための前提能力(主に感覚的面)として欠けている部分である。
このプロフィールについて,若干の考察を加えてみよう。○調性の3
へ長調の分散和音模唱(ふしを聞いて反射的に階名唱)や,同じメロディーの記譜練習が必要である。○拍子・リズムの5
2/4拍子のみができないので,4/4と2/4の曲の聴取による相異を感得させること。ただし,3/4については一応とらえているので,「冬げしき」の学習には,さほど抵抗はないと考えられる。○拍子・リズムの6・7
ととの関係が不明確なので,音程をつけたリズム(と)のききわけからはいる段階的な指導が必要である。なお,リズム記譜については部分的に正答個所が多くみられたので,短期間で記譜力が身につくと考えられる。○和声の11
へ長調主要三和音のききわけができないのでハンドサインや身体表現による反応から指導を加えたい。7 反省と今後の課題
今回の前提能力測定は,音楽学習能力のうち,主に感覚的能力を中心にすえ,その方法として「要素」という考え方をとり入れたのであるが,測定の内容・方法については,多くの疑問が残る。つまり,ひとつの教材を習得するためのスタートとして,「〜を感じとることができる」「〜ができる」という能力は,あくまでも教師側の仮説であり,前提能力としての妥当性はどうなのか。さらには,「要素」という一面のみの網目のかけ方だけでよいのかどうか。音楽科のような感情能力や技術能力を必要とする教科を,算数・数学科のように整った系統性をもったものと同一視して能力を詳細に分析し,測定すること自体に無理があるのではないか。
音楽学習の原点が楽譜ではなく,音からのスタートであり,音→表現→記号という具体から抽象への段階を踏んではじめて,音楽の諸能力が身につくことを考えるならば,次の段階として表現能力(歌唱・器楽等)の測定へと歩みを進めなければならない。
最後に,ご協力いただいた2小学校の先生方に深く感謝の意を表します。
参考文献
山 本 弘 著
「音楽教育の診断と体質改善」