研究紀要第22号 児童・生徒の学習能力の発達 学習能力の発達と授業の研究 - 060/062page

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(4) 授業についての考察

 児童の前提能力調査の結果を生かし,ひとりひとりの思考の変容をとらえるという意図のもとに取り組んだ授業であったが,教師自身も得るところが多かった。次に,授業を進めたうえで問題になったことや成果について,3点から考察してみたいと思う。

(ア) 資料による児童の反応

 この授業では,いくつかの資料を使用したが,提示の際の一人一人の反応の違いを例をあげて考えてみよう。

提示資料
A  児
B  児
C  児
○まくら実物
○まくらカバー,3種(ゆるみの必要説明)
○T.P3枚重ね(ゆるみとぬいしろの必要説明)
○よく注意して聞いている。
○発表「ゆるみとぬいしろを合わせて,4cmつけ加えました。」
○ゆるみは,上下1cmずつ必要だとの説明に「わからないなあ。」
○質問「ゆるみをぬいしろに入れるんですか。」
○説明がわかって,集中して作業(図の修正)
○何をつけたしたかについて挙手
○ゆるみを入れた子の発表を聞き,失敗したとつぶやく。
○0.H.Pの提示に対し,よく見入って首をひねる。
○わかったことをノートに記入し,自分の考えをつけ加える。
○友達の発表をあまり聞いていない。
○0.H.Pでの説明は少し聞くが,自分のノートが気になる。
○ゆるみの説明のとき,何か書いている。
○わかったことを,板書通りノートする。

○ 自分の意見をはっきり述べ,わからないことを質問するA児は,この授業を通して疑問をすべて解決し,知識として定着して,事後テスト・は持テストともに正答で通過する。
○ B児は,話し合いによって自分の失敗に気づき,0HPの資料で,何とか理解できた。
○ C児は,注意の集中が悪く,理解不完全のまま結論を移すだけである。従って身についた能力としての定着は弱い。
O 同じ資料の提示に際しても,受けとめ方はひとりひとり違う。資料提示の内容とタイミングを最適にする必要がある。また,つまずきに対する補足資料や説明を,児童の反応を予想して,いくつかのステップを刻んで用意しておくことが必要である。

(イ) 発問と児童の話し合い

 ひとつの発問に対し,児童の発言が枝分かれし,いろいろの角度から検討しながら問題の核心にせまっていくことが,集団思考のねらいの一つである。

 このような中心発問を,授業の重要な部分に位置づけておくことによって,前述の資料とあいまって,児童の思考が深められていくと考えられる。

 次に示すのは,布の色を選択する際の話し合いである。ここでは,布地標本を資料として使用した。
 ここで,白の方がよいと答えた者は,まくらカバーの使用目的に即して思考している。白でない方がよいと答えた者は,具体的に使用したときの問題点をふまえた発想である。どちらに考えの重点をおいているかの違いであり,いちがいに誤答とはいえない。しかし,まくらカバーの場合は,清潔さが優先するので,使用目的にもどって,修正の観点を示した。


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