研究紀要第24号 中学校 福島県診断標準学力検査問題分析結果報告書 - 034/106page
以上のことから,工業生産の立地条件の考察がたいせつであり,工業地域の分布を大観させ,人口分布,主要都市,交通などとの関係に着目させることの指導にじゅうぶん配慮すべきであろう。
【2】 資料活用の能力
問1は,航空路の発達につれて,一般に利用される心射(中心)投影法や正距方位投影法等,どの程度正しく読みとれるかを診断した。平面図(地図)と球体(地球)のズレを意識して,投影図法の基本的理解ができていれば,図そのものも単純なため,誤答はもっと少なくなるはずである。地球儀の活用によって,実証的に理解されていれば,小問(2)「東京からみて真西の方位」の正答率56%は,もっと高くなって当然であろう。
問2は,三つの略図とも,対照的な分布をもっとも単純化した形で表現したものである。
B「おもな山地帯とおもな平野」は,小学校からかなり使っており、そのため,正答率82.2%となったと考えられる。
@「人口密集地帯と稀薄地帯」A「農業地域(畑作と米作地域)と商工業地域」が40%程度であったのは,世界的視野からみた総合的な理解が,具体的にとらえられなかったことによるものであろう。
世界の人口分布や産業発達の地域をは握するには世界の大観を作図で確かめさせるなどの整理が必要であろう。問3の「東南アジアの貿易」は,円グラフを確実に読みとれば,結果のごとく,かなり高い正答率がみられる。
ただ,小問Eが40%を下回ったのは,直接グラフと関係はないので,地理的事象の自然的,社会的条件と人間との関係の変貌をもっとたいせつに取り扱う指導があってよい。
【3】 社会的思考・判断
問1「世界の農牧業地域」の立地条件の考察に関する問題であり,結果は次のとおりである。
A(資料) B(条件)インドシナ半島 29.3% 28.8%ラプラタ川流域 49.0% 55.8%オーストラリア 75.2% 38.5%カリフォルニア 4.3% 34.9%オーストラリアとカリフォルニアのA・B群の正答率の開きが目立っている。
この問題の解答にあたっては,四つの農業地域のイメージがある程度前提となってくる。オーストラリアと羊毛に関するイメージは,かなり強い。それが,75%の正答率となって表われている。しかし,立地条件となると40%に満たない。
逆に,カリフォルニアの場合は,資料の適否が4%,立地条件は35%となっており,生徒の思考力の甘さがみられる。前述した工業地帯の場合と同様,ここでも考察力を深める指導が欠けるように思われる。そこで,例えば,農業学習の考察力を高めるための一つのパターンとして,
分布のは握(何が,どれくらい)→要因の追究(どうして)→地域性の整理(どうなっているか。今後はどうか)
といった視点で,考える地理学習を方法的に検討してみてはどうだろうか。
合衆国やラテンアメリカの農業は,自然環境との関係をとらえるのに,もっとも典型的な教材であり資料を駆使した能動的な学習が期待され,生徒の思考力も高まると考えられる。問2「アメリカの課題」は,資料をよみとって的確な解釈ができれば,かなりの正答率がでるものと予想した。結果は標準をやや下回っている。
(A)の「アフリカの国連にしめる割合」は政治的な独立の拡大,(B)「石油生産にしめる外国資本の割合」は,経済自立の困難性をとらえることができれば,全体としての正答率はもっと期待できたはずである。問3は,地理的分野の学習のしめくくりとして,わが国の産業の今後のあり方に関心をもたせるとともに,公民的分野「日本経済の現状と課題」への移行,関連を考慮した形の設問である。
農業,工業とも,二つの組合せができて正解とした。つまり,問題点を含む現状に対応した改善方法を明確には握できるかどうかの診断である。工業の改善方法に誤答「キ」が多かったのは,工業としての現状のとらえ方ができなかったことによるものである。
「世界の中の日本」の指導は,公民的分野との関連は深いが,地理的分野での農業,工業学習と公民的分野でのそれとは,当然,指導の重点は異なっている。地理的分野では,地域の特性は握,絶えざる変化の理解などの能力の育成が重点なのである。