研究紀要第25号 学習指導に関する研究 - 001/060page
学力検査問題報告書からみた算数の基礎学力の変動
−小学校1年から5年を中心として−1 はじめに
現在の学習指導要領が実施されてから,5年経過した今日,現場(各小学校の)から指導内容が多すぎるとか,児童の計算力が低下したという声が聞かれる。
このような声は,教師の授業実践から得た感覚的推定結果であろうが,算数教育における理論と実践の関係からみると重要な問題を指摘していると考えられる。
それは「理論と実践の関係を明らかにするには,次の@,Aのcycleを繰返す」必要があるからである。
@ 短い指導過程(実際の授業などの)を分析・検討して得た結果によって,より長い指導過程(領域や1年間などの)をPlotして,一つの理論を演繹する。
A 長い期間における指導結果(領域や1年間などの)を分析・検討して得た結果によって@の理論を検証する。そして,一般的にみて,@についての研究は多く,Aについての研究は少い。
そこで,教師の経験的比較結果(前述の声)を「数学教育の現代化やこの現代化を前提とした指導法」などによる算数教育の理論についての検証予想とみるならば,Aの問題として,その重要性が理解できよう。
(1) 教師の経験的比較
「指導内容が多すぎるとか,児童の計算力が低下したという問題」の検討の仕方を考察するために,教師の経験的比較の実態を次のように解釈する。
すなわち,その比較は,改訂前の学習指導要領のときの指導経験と,改訂学習指導要領による授業での問題演習やテスト結果などをとおして行われたものであると考える。(dataとdataとの比較でない。)
したがって,学習指導要領が改訂されても,変わらないような内容のところで比較されているものと考えてよいであろう。
そこで,このような教師の比較実態に近づけたdataを得るために以下のようにすることにした。
(2) 推定に用いた資料
@ 福島県教育センター(福島県教育調査研究所)における「診断的性格をおびた福島県標準学力検査問題報告書」
A 福島県教育委員会の「福島県小学校中学校学力診断報舌書;昭秘2年度,昭和43年度」@の報告書は,テストの標準化をはかるために県内の小学校を学校規模と学校の所在する地域類型から層化し,比例割当によって標本校を選定して実施した結果の分析である。
Aの報告書は,本県の小学校・中学校の学力の実態を診断的にとらえ,学習指導上の改善に役立てる目的で,県内の小学校・中学校から10%抽出した標本校について実施した学力の診断結果である。
なお,この二つの資料のほかには,県内児童の学力の変動を推定するのに適する資料がなかった。
(3) 比較年度
@ 小学校1,2年について
低学年の場合は,学習指導要領の改訂期