研究紀要第25号 学習指導に関する研究 - 023/060page
教材および指導資料の研究
生物と環境に関する素材研究
−ショウジョウバエの増殖と環境要因について−1.はじめに
生物は,つねに環境の影響を受け,また,環境へ働きかけながら生活をしている。
中学三年の「生物と環境」の教材では,この生物と環境との相互作用を理解させることを,ねらいとしている。しかし,生物を取り巻く多くの環境要因は,単独で生物とかかわりあうことは少なく,幾つかの要因が,複雑に重なりあうため,野外での事象観察だけでは,この相互作用をとらえることは難しい。そのため,複雑に働きかける環境要因の幾つかを取り出し,実験的に生物と環境との相互作用を解明することが必要になってくる。ここで取り上げたショウジョウバエは,遺伝学の研究材料として,古くから研究されてきたコンチュウであるが,身近に生息すること,飼育が簡単なこと,世代の繰り返しが短かいことなどから,多目的な実験材料として,利用価値が高く,この教材への利用も充分期待できるものである。
ショウジョウバエについては,小学校の四年で成長や活動の様子と温度との関係について学習をしている。ここでは,それらの教材を発展させて,増殖と生息密度との関係,増殖と食物の量との関係を調べ,生物と環境の相互作用を学習させる上での素材としての検討を加えてみたい。
2.コンチュウの増殖と環境要因
コンチュウの増殖は,気象条件,天敵,食物の量,生息密度などの環境要因に支配される。
産卵された卵が,発育の途中で死亡することなく,すべてが成虫になるとすれば,そのコンチュウの増加は膨大なものになる。すなわち,最初の個体数をP,産卵数に雌比(雌虫数÷総数)を乗じた数をZ,世代数をnとすると,第n世代にはPZn
の個体数が得られる。しかし,自然界では,このような増殖を示すことはほとんどなく,わずかに数パーセントが生存するにすぎない。これは,卵から成虫になる間に,前述した要因が,抑制的に働くためである。
ここでは,ドライ・ラボとして扱うことも考慮して,データを中心にして示し,増殖と生息密度及び食物の量との関係について考察をしていく。
3.増殖と生息密度との関係を調べる実験
(1) ねらい
ショウジョウバエの増殖と生息密度との関係を調べる。
(2) 準備
55ml管びん,えさ(コーンミール45g,黒砂糖18g,寒天4.5g,水400mlの割合で混合し,湯せんで煮たもの),ボーキニンB,キイロショウジョウバエ,イーストけん濁液。
(3) 方法
@ 8gのえさを25本の管びんに入れて,イーストけん濁液を落す。
A 羽化直後の雌雄のショウジョウバエを1対,2対,4対,8対,16対ずつそれぞれ5本の管びんの中に入れ,25℃で飼育する。
B 5目後に成虫を取り出して逃がし,その後羽化してきた成虫の数を調べる。期間は,最初に羽化した日から10日間とする。(4) 結果と考察
第1表及び第1図はその結果である。
この実験結果が示す通り,5mlの管びん,8gの食物量という条件のもとでは,生息密度が