研究紀要第29号 学習指導に関する研究 - 111/118page
できた。そして,将来はソフトウエァの比重が圧倒的な地位を占めることになろう。従来,「物的生産」をもって生産と考えていた既成概念は破られ,新たに「知的生産」が生産の主流になる。
かくて,工業化社会は知的生産を中心とした知識産業社会に,そして情報化社会へと移行することになる。
このように情報化社会を社会的発展段階の一つとしてとらえ,現在わが国も本格的に突入する緒についたことへの認識を新たにしたのであるが,さらに,未来学者などの見解を参考にしながら情報化社会の概念を明確にしてゆきたい。
(2) 情報化社会の理論
―未来学者たちの見解―@ アメリカのダニエル・ベルやハーマン・カーンなどによって提起された「ポスト・インダストリアル・ソサエテイ」Post-industrial Society この「脱工業化社会」の理論は,要約すればつぎの諸点を仮説するものである。
1 社会変容 Social Change の方向は,「農業」(第一次産業)と「工業」(第二次産業)から「サービス業」(第三次産業)へ重心が推移する。
2 より富裕な社会が実現し,レジャー活動が活発となる。
3 教育水準が上昇する。
4 従来のエネルギーと物質におかれてきた社会的重要度が,「知識」ないし「情報」におかれるようになる。
5 「工業化社会」から「脱工業化社会」ヘの産業構造のシフトは,従来の「仕事」中心主義から「生活」中心主義,あるいは「論理」の尊重から「感覚」feelingの尊重など,主要な価値観におけるシフトを生じさせるに至る。
6 「脱工業化社会」は「知識集約型社会」であり,この新しいタイプの社会にあっては,従来の第一次,第二次,第三次諸産業に対して,教育,研究・開発,出版・印刷,通信,情報機器,情報サービス,放送などを包括するいわゆる「知識・情報産業」の相対的比重が高まる。こうした「脱工業化社会」理論は,1960年代後半から徐徐に学者や評論家の手によって「情報化」という日本語の新造語の内容にとり入れられるようになっていったのである。
A ケネス・ボールデインゲの文明後の社会 人類の長い歴史を,文明前の段階と,文明段階と,文明後の段階に分けている。
彼の定義によれば,紀元前5千年ないし1万年ぐらいが一つの結節点で,それ以前がいわゆる文明前の社会,それ以後が文明社会ということになっている。そして現在その文明社会はようやく文明後の社会へ転換するという第二の転換点を迎えようとしている。文明社会の展開とともに変化のテンポは加速度的に早くなってきているため,第二の結節点である文明社会から文明後の社会への転換は,第一結節点のときのように広い幅で展開されるとは考えられない。いいかえれば,きわめて短い期間に変化する,そういう現象が考えられるわけである。 彼がそこで指摘しているのは,われわれは今日第二の結節点を迎えようとしているにもかかわらず,われわれはなお文明社会の中でいろいろな未解決な宿題を背負っており,それを早く解決しておかないと,文明社会から文明後の社会への転換をやりそこなうかもしれない。そうなったら人類社会の滅亡だということで,現代社会に対して彼は重大な警告を発しているのである。
ここで彼がいう文明後の社会とはどのような社会であるのか,それを彼は必ずしも明らかにはしていない。しかし,それがおそらく,いわゆる情報化仕会といわれるものらしいことは,容易に推察される。
B 林雄二郎教授の見解
東京工大の林教授が,「情報化社会と新しい価値体系」という論文で情報化社会について非常に明確な説明をしている。
「………それならば工業化社会の次の社会というものは,いったい具体的にはどんな社会になるだろうか。それは一口でいえば情報社会といわれるものである。