研究紀要第29号 学習指導に関する研究 - 112/118page
それでは,この情報社会とは何であるか。情報社会を定義すると,情報が価値を生む時代ということになるのであるが,これも工業社会と対比して考えてみると,工業社会の場合には形のある有形の物材が価値を生む時代であるといえる。それに対し情報社会が価値を生む情報なるものは,本来無形のものである。そこで社会の情報化とは,有形の物材が価値を生む時代から,無形の情報が価値を生む時代に変わるというふうに定義してもよいだろう。」
このような工業化社会から情報化社会への転換は当然人間の価値観を大きく変えることは,いうまでもない。この点についても林教授は,
「農業社会から工業社会への転換ということを考えてみると,社会の値価体系という観点からするならば,それは決して根本的な変化とはいえない。なぜならば農業社会においても,工業社会においても,ともに価値を生むのは有形の物材であるという点については,変わりがなかったからである。それにもかかわらず,われわれは農業社会から工業社会への転換の過程で,たいへん大きな変化を体験したことはすでに述べたとおりである。とするならば,やがてきたるべき情報化社会においては,有形の物材が価値を生む時代から,無形の情報が価値を生む時代になるということになるのだから,これはまさに価値体系の根本的な転換になるであろう。過去において価値体系が根本的に転換しなくても,なおかつあのような大きな変化を体験したとすれば,社会の情報化に伴って,われわれがこうむるであろう社会的変化は,どのように大きなものであるかは,想像もできないといっても過言ではないかもしれない。」このことは要するに物の価値から情報の価値への価値基準の焦点が移行することであり,知識が歴史の主役を演ずるようになった社会を情報化社会といえるであろう。
(3) わが国の情報化社会への動向
すでに,わが国の経済社会構造の変動を歴史的・社会的発展の背景をさぐりながら考察してきたが,さらに最近の産業構造の発展の方向をとう察してみたい。
1971年に通商産業大臣の諮問機関である産業構造審議会が行った中間答申では,わが国の今後の産業構造を知識集約化の方向に発展させていくべきことを提言し,コンピュータ産業をはじめとする情報産業を産業構造の高度化における中核として位置づけた。じ来,わが国の汎用コンピュータ設置台数は,1970年3月末の6,718セットに対し,1975年3月末30,095セットと5年間に約4.5倍と著しい伸びを示し,コンピュータを軸とする情報化が産業,行政,社会などの各方面で大幅に進んでいる。
1974年9月,産業構造審議会総合部会の場で,「わが国産業構造の方向」がとりまとめられた。この中において,今後のわが国産業構造のあり方を考える基本的視点として,@「真の豊かさ」を追求するという国民二ーズ「国民的目標」を実現するための産業的基盤を確立し得るような産業構造,A資源エネルギー高度利用型の産業構造,B技術集約産業の発展に支えられた産業構造の高度化,C国際協調を促進し,進展する国際経済の動きに円滑に適応し得る産業構造等にする必要のあることがあげられているが,このような産業構造の転換を促進する基軸として電子計算機産業の発展に期待している。
また,同月に同審議会情報産業部会がまとめた「情報化および情報産業のあり方,これに対する施策」に関する中間答申の中でも,今後国民二ーズに対応し,国民福祉の向上を図るため,医療,交通,防災等社会,生活面の情報化を促進することが必要であるが,電子計算機産業は,その供給面を担う重要産業であるとともに,知識集約型,省資源,省エネルギー型,無公害型企業の典型であり,その発展は今後のわが国産業構造,貿易構造の中核として大きく期待されていると述べ,その重要性を指摘している。
さらに1976年7月9目の報告にも,わが国の産業構造は情報産業を中心に知識集約型の方向をたどり,輸出面でもコンピュータが戦略商品化していくことを示している。更にコンピュータを使っ