研究紀要第33号 学習指導に関する研究 - 059/092page

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 これらのことから考えれば,ニトロベンゼンの還元にはニトロベンゼン1ml(1.2g)に対してスズは5g以上,濃塩酸は8ml以上使用すれば反応終了後の生成混合物中の約90%以上のアニリンおよびo−クロロアニリン,p−クロロアニリンを含めるようにすることができる。

 アニリンの生成をサラシ粉などによる呈色で確認する方法は,単にアニリンの生成のみしかわからない。しかし,反応はこのように副反応を伴い必ず,o−クロロアニリン,p−クロロアニリンが出来るのであるから,TLCで展開し,それぞれの物質を同定して指導することが大切である。そのような指導を導入することによって,有機化学反応の特徴の一つである主目的物質だけが出来るのでなく,副反応を伴うことの理解が高まってくると思われる。TLCは非常に簡単でしかも割合鋭敏に分離できるので,是非授業に取り入れたい。

6.加熱の方法を変えた場合

 前に指摘したように加熱の方法の指示が非常にあいまいなので,これがアニリンの生成にどのように影響するか調べてみた。

実験 ニトロベンゼン1ml(1.2g) 濃塩酸5ml スズを2gから1gずつ増加させる。
加熱の方法 温度調節器付きの電気水浴器で60℃(±1℃)に加熱した湯の中に試験管を入れる。水素が発生し始めても,振盪を続けながら湯の中に入れておいた。
反応終了後は常法によってエーテルで抽出した。

実験 ニトロベンゼン1ml,スズ2g,塩酸の量を6mlから1mlずつ増加させる。
加熱の方法は前述のように水浴器を使用する。

結果と考察
 いずれの場合も反応開始後しばらくすると水素の発生は続いているが,淡い黄白色のかたまりが溶液の上部に生成する。このものは6M-NaOHを加えると溶解する。エーテル抽出液中の生成物の混合モル比は表10および表11のようになった。

スズの量
アニリン
ニトロベンゼン
o−クロロアニリン
p−クロロアニリン
11
2g
0.19
0.78
0.01
0.02
12
3
0.17
0.81
0.01
0.02
13
4
0.23
0.78

表10 スズを変化させたときの生成量

塩酸の量
アニリン
ニトロベンゼン
o−クロロアニリン
p−クロロアニリン
14
6ml
0.14
0.85
15
7
0.15
0.84
0.01
16
8
0.17
0.81
0.01
17
9
0.18
0.79
0.01
0.02

表11 塩酸を変化させたときの生成量

 反応溶液は沸騰しないので余り高い温度にならないし,水素の発生も直接加熱したものに比べておだやかである。直接加熱した結果(表8,表9)と比べて,アニリンの生成量が非常に少なく,未反応ニトロベンゼンが多いことがわかる。

水浴器による加熱の場合には,アニリンの生成量が少ないので塩酸の量を増加していっても,表9にみられるように,アニリンの生成量が途中でピークを示すような現象はみられない。
 また,表9に比べて副生成物の割合が非常に少なくなっていることがわかる。しかし,塩酸の量を多くすると副生成物の量が増してくることは1表9,表11のいずれの場合にも認められる。一方塩酸を一定にしてスズを増加させると,表8,表10のように副生成物の量が減少していく。

 このような結果から考えて,反応温度が低いと副反応はある程度押えることができるけれども,目的とするアニリンの生成量も相当減少するので,60℃のお湯の中に入れておだやかに加熱する反応条件は,直接加熱する場合に比べて劣っていると思われる。加熱は直火で水素の発生が連続している程度に行なうのがよいのではないか。

7.副反応生成物について

 加熱の方法を問わず,この還元反応ではo−クロ


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