研究紀要第37号 登校拒否に関する研究 - 009/022page
登校児の母親群と比較してみて,拒否児群の母親にみられる顕著な態度は,不一致型(差45.7)矛盾型(差42.4),消極的拒否型(差30.9),溺愛型(差26.0),盲従型(差22.6)であった。このような態度で育てられた場合,子どもたちの性格形成にどんな影響を与えるかをまとめてみると次のようになる。
〈不一致型〉 両親の子どもに対する態度が一致しないので,子どもはいつも心理的な安定感が得られない。学業面でも,親から受容され,信頼されているという気持ちを与えられないので,不安感・焦燥感におそわれ,意欲的になれない。
〈矛盾型〉 このような態度のもとで育つ子は,親や周囲の人々の顔色をうかがうことになる。学業の面でも,気まぐれになったり,逆に神経質になるので効果が上らず安定しない。拒否児の多くは,頭痛・動悸など心身症的な訴えをするが,それらの子どもの親の態度は,この矛盾型が多い。
〈消極的拒否型・放任〉 この態度で問題なのは,子どもは親に承認されることが少ないので,やりがいを感じず,どうでもよいという怠惰な気持ちになることである、、拒否児の中の怠学的傾向児の親の養育態度に,この型のものが多い。
〈溺愛型・盲従型〉 必要以上のかばいすぎ,かわいがりすぎは,見方を変えれば.発達段階に応じて当然身につけていかなければならない諸能力や,自立心の発達を奪うことになる。学業面においても,依頼心が強くわがままになるので,基礎学力のような,訓練を必要とする学習をいやがり,学業不振に結びつきやすい。
その他,調査結果のプロフィールで準危険値を示している積極的拒否型・不安型の養育態度も,望ましい性格形成には問題がありそうである。
4.学業不振・不適応と登校拒否との関連
このようにして考えてくると,学業不振・不適応児や登校拒否児たちは,長い間の養育態度の中で(これだけが原因とはいえない。注1参照),少しずつ登校拒否を起こすような性格形成がなされてきて,ある時,先生にしかられたとか,友人にばかにされたとかというきっかけを得て,一挙に拒否という態度になって表れてくるものといえそうである。学業不振・不適応と登校拒否との関連を,性格という点に焦点をしぼって,上記に述べてきたことをまとめてみると,次の図のように考えられる。(図3)
5.まとめに
以上,登校拒否児と学業不振・不適応について,性格面から追究してきたが,最後に問題点として,「耐性の不足」をあげることができる。学業不振不適応児が必ず登校拒否を起こすとはいえない。登校拒否に結びつくのは,性格的に,学業不振・不適応という事実から起こる強い欲求不満に耐えることができなかった場合である。拒否児たちは,一様に適切な耐性が弱い。適切な耐性を持つ子とは,いわゆる「いい子」ではない。わがままやなげやりな言動に訴えたり,神経症的言動に陥ることなく,心に沸く欲求不満に耐え,昇華させていける子である。登校拒否の問題を考えるとき,この耐性不足をぬくことはできない。
年々登校拒否児が増えているのは,戦後の価値観の混乱,核家族化,教育観の多様化等により,子どもを過保護のもとに育てる傾向が強まり,適切な耐性を育てて来なかったからだと指摘されているが,実際に拒否児に接し,治療的指導をしてみるとうなづけることである。耐性を育てるのは,家庭教育の中であり,それを補強するのが学校教育であろう。いかにしてこの適切な耐性を持った子どもに育てていくか,これが,今後の課題に思われるのである。