研究紀要第37号 登校拒否に関する研究 - 010/022page

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V 行動療法による登校拒否児の治療的指導

1.はじめに

本事例は,ある教科学習のつまづきから,その場をのがれたいという場面逃避による登校拒否児A男に対して,学校についての不安感情をとり除き,耐性を強化するために行動療法を試みた治療的指導の実際例である。

2.行動療法の意義と効果

行動療法は,簡単に言えば「不適応行動を弱めながら除去し,適応行動をひき出して強化する方法」である。その主要な理論となるものは,パブロフの古典的条件づけと,ソーンダイク・スキナーらによる道具的条件づけとである。前者は,問題となる不安に拮抗(きっこう〉できるような不安刺激を,弱いものから強いものへと高めながら,不安を漸次解消させ耐性を強化しようとするものであり,後者は,問題の反応に対して,賞や罰などを与えることにより,望ましい反応を学習させ耐性を強化しようとするものである。

学者による臨床例では,行動療法は他の療法に比べ,特定の恐怖症や,特定場面に不安の発現する状況等に大変有効であることが指摘されている。

具体的には
 ・高所恐怖症・視線恐怖症・その他の神経症・自閉症・チック・吃音(きつおん)・偏食
などである。従って,登校拒否の治療にはかなり有効であると思われる。

3.中学3年A男の登校拒否の事例

(1) 間題の概要

昭和53年4月18日(火)本人と初対面。汗をかきながら12kmの道のりを自転車で来所した。本人とのラポートをとるためテレビゲームをやる。楽しそうであった。学校では,テニス部に籍をおき活動した様子,家庭では,父から卓球を教えられたこと,サイクリングや自動車に興味をもっていることなどを気軽に話してくれた。めがねをかけ,ずんぐりしていてまじめそうな顔つきである。勉強の話になったら中断してしまった。52年10月初旬以降,全然学校へ行っていないとのことであった。学校に対しては強い拒否反応を示していることがうかがえた。

52年度までの経過を述べると次の通りである。

夏休み後,担任の先生に水泳大会参加の件でしかられてから,このことを気にして休み始め,水泳恐怖症から学校恐怖症へと移っていく。

9月は10口間出席。9月30日,日光遠足旅行に参加。10月2日以降ずっと欠席を続けてきた。家庭では,本人が理由もないのに学校を休むので,無理に登校させたが失敗に終わっている。担任の先生が車で迎えにいっても「死んでもいやだ」といって拒否した。

10月から3月まで,一週間に一度,本人と親の面接を続けてきたが,本人の学校に対する恐怖心は依然としてとり除かれていない。親の養育態度は発症当時に比べ,良い方向に変容してきている。本人19回,親14回の面接を実施してきた。3月からは一週に一度,一人で来所している。

(2) 本人の状況

 @ 特性
  ア.WISCの結果:TQ 119(言語性TQ 105,動作性 I Q 128)
  イ.Y - G性格検査  E′型で,消極的・不安定・不適応型。
  ウ.C.A.S性格検査(不安診断検査)  全体的に,不安ノイローゼ傾向がある。
  エ.ロールシャッハテスト  情緒的生活がきわめて貧弱であり,環境への順応力も弱い。
  オ.友人  ほとんどいない。

 A 生育歴
  ア.1歳3か月のとき腸重積症を起こした。
  イ.1歳9か月より母勤務にでる。
  ウ.外科医の診断:背骨の発育不全。


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