研究紀要第38号 学習指導に関する研究 - 014/081page
十分な準備,特に教材の論理構造と生徒の心理構造をよく配慮した,「わかる授業」を準備しなければならない。
ここでいうわかる授業とは,教師側からすれば「学習の目標が生徒にわかる」,「学習の内容が生徒にわかる」,「学習の方法が生徒にわかる」ことであり,生徒側からすれば生徒の学習態度としては,「目的−手段」関係を明確にしながら,自分自身の問題として,身を入れて学習し,ひとつのやり方に失敗してもくじけないで,次々と新しいやり方を考え出し,進んで質問したり,参考書で調べたり,討議したりして,計画的・創造的に,ねばり強く進んでいくことである。
このように,わかる授業のあり方を考えないで,ただ,学習意欲がない生徒がいるといっても,それは,教師みずからが種をまいているといっても過言ではないだろう。よく準備された授業ならば,学習意欲のない生徒の数も減少するはずである。にもかかわらず,少数であるかも知れないが,一時間,一時間の授業の流れに,なかなか乗れない生徒がいることも事実である。
では,そのような生徒は,どんな生徒であるか考えてみよう。(1) カリキュラムが,本人の能力に適合一致していないため,高い要求についていけない(遅進・不振)生徒や,退屈している(優秀)生徒。
(2) 能力はあるが,レディネスとしての基礎学力が身についていない生徒。(その原因には,注意が必要であり,特に,虚弱,情緒障害を問題としなければならない。)
(3) 教師や友人からの承認や愛情が得られなかったり,親の過保護,拒否,放任などによって,性格がゆがめられ,極度に攻撃的になってしまった生徒。また,反対に引っ込み思案になってしまい,いつもびくびくしている生徒。いずれも,人間関係のゆがみから,適正な社会性が身につかず,いたずらに,心的エネルギーを浪費している生徒である。
(4) 神経過敏で,刺激に対して反応が強く,不安に陥り,落ち着かない生徒。根気がなく,欲求不満に対する耐性が乏しいなど,人格の統合がとれていない生徒。あるいは情緒障害の生徒。
(5) 家庭環境や近隣の環境が悪く,興味や関心が学校教育以外のものに向けられている生徒。これらのことは,単独に作用する場合は少なく,普通,複雑に絡みあって,学習意欲の乏しい生徒を生み出しているのである。
4.学習意欲を高める方策
学習意欲を問題にする場合,人間のパーソナリティの全体構造から考察を加えてみたい。
マスローは,「人間の基本的欲求は,低次な欲求から,高次な欲求へと階層をなしている。」と考え5階層に分けている。
図1 マスローの欲求階層
この欲求階層では,人間は,誕生直後においては,生命維持にかかわる生理的欲求の充足のためにだけ行動し,その他の欲求を知らない。しかし,やがてその欲求の満足のうえに,危険から身を守ろうとする安全性の欲求が働き,行動を支配するようになる。更に,この充足のうえに,愛情と所属の欲求,自尊の欲求(自分の存在・価値を尊重し,また他から尊重されたい欲求),そして,最後に,自己実現の欲求と,次々に生まれてくるとしている。
この考えを,学習の場に置きかえてみれば,次のようになるであろう。○ 1次レベルの欲求
学習するよりも,自分のからだのために,外に出て遊ぶ方がよい。