研究紀要第38号 学習指導に関する研究 - 052/081page
成するという課題をもっている。
音楽教材は,表現や鑑賞の学習活動を通して目標にせまる学習活動材でもあるが,音楽教材の特質から次の二つが考えられる。@ 楽曲=教材
音楽作品が主要教材をなし,教材(楽曲)自体に人間的成長上の可能性や適合性があり,理想化された価値素材であるとともに,心の栄養素,感動材,能力材である。楽曲を表現・鑑賞の2領域から追体験することによって,音楽科の目標にせまろうとするものである。A 音楽を構成している諸要素を素材として,あるまとまった事象を習得する教材
この場合は,幾つかの素材をもとに,あるまとまった音楽的事象を理解させたり,習得させたりするための教材,例えば,「日本のリズム」という主題をもとに,「日本の音楽」を特徴づけているいろいろなリズム素材を準備し,教材化して,表現や鑑賞の学習活動を通して,「日本のリズム」についての特徴を理解させることである。
民謡を教材として取り上げる場合も,それぞれのねらいによって@,Aを選択し,目標の達成に役立つものに組み替える教材化の過程を経て,はじめて教材となるわけである。
(1) 民謡指導のねらい
@ 郷土の民謡の単純,素朴な美しさを表現させ,民謡の表現の楽しさを味わわせる。
A 民謡の生成した背景(郷土の自然,社会,生産,労働,文化などとのかかわり)を理解し,表現に生かさせる。
B 民謡の表現・鑑賞の学習活動を通して,郷土の音楽のよさを認識させ,愛郷心を育てる基盤とする。
C 日本の伝統音楽への発展と日本人の音楽的感や美意識について理解させる。
(2) 民謡選択上の留意点
@ 郷土の特徴がよく出ていて,音楽的に質が高く,教育的に価値のあるもの。
A 生徒の心身の発達段階にふさわしい歌詞・内容・旋律・リズムであるもの。
中学校から郷土の音楽に接すということではなく,小学校のわらべうたの学習の積み重ねの上に,民謡や郷土の音楽の学習が系統的,計画的に実施されなければならない。B できるだけ身近な地域から適当な教材を選ぶようにする。適当な教材がない場合は,広い地域,地方,県内から選択する。
本県でも民謡の分布に偏りがあり,広い地域から選択しなければならない地域もあると思われる。また,うずもれている民謡もまだまだあると思われるので,生徒を動員して古老から録音採集し,教材とすることは意義のあることである。C 教材は,プロの民謡歌手の歌ったものでなく,現地で収録したものを用いる。
プロの民謡歌手の歌い方も参考にはなるが,民謡の生命である郷土性や素朴性が失われて,華やかで技巧的である。D 共通教材や諸外国の民族音楽の指導と関連をもって,民謡の教材を選択する。
例 ア 鑑賞共通教材「管弦楽のための木挽き歌」と本県の木挽き歌(「相馬の木挽き歌」,「いわきの木挽き歌」,「県北の木挽き歌」)と関連ずける。