研究紀要40号 事例を通した教育相談のすすめ方 - 013/025page

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7 事 例

   多 動 性

 

1 はじめに

 注意散漫、いたずら、移り気など、おちつきがないという訴えは、特に年少児に多い。
 この「おつちきなさ」は、多動性ともいわれ、一般的に、大きけわけると次の3つに分類できる。

(1) 生来的傾向としての多動性

 これは先天的素質によるもので、多動性気質と呼ばれている。症状は、ふつうの子供に比べて非常に動きが多く、テンポも速い。

(2) 情緒不安定による多動性

 この原因には二つ考えられる。第一に、両親の態度に問題がある場合で、@厳格すぎるA過干渉B教育方針の矛盾・不一致C玩具・教材の与えすぎなどによって起こる。第二に、生活環境そのものに問題がある場合で、@忙しいA人の出入りが多いB事業所と住居が同一場所であるC住所が繁華街にあるなどの好ましくない環境によって起こる。

(3) 脳の器質障害による多動性

 てんかん、仮死出産、脳炎後遺症などの脳に器質的欠陥がある場合に起こる。
 以上の多動性の原因は、(1)+(2)、(2)+(3)という形で重なって、問題をさらに深刻にしていくものである。
 ここでは、主として(2)+(3)の場合をとりあげ、親のカウンセリングを重点に、子供に遊戯療法を試みた事例をあげる。

 

2 事 例

(1) 主 訴  「多動性」

(2) 対象者  T、K  小学校1年男子、7歳

(3) 問題の概要

 昭和53年11月30日来所。本人は幼稚園で、団体生活ができず、個人行動に走ることが多い。また、集中力がなく、ひとつの遊びにも熱中できず、あきっぽい。初回面接では、母親から以上のような訴えがあった。
 本人と一緒に遊戯室に入るや、パチンコのそばに走りより、「これ使ってもいい?」と許可を求めてきた。さわろうとするおもちゃひとつひとつに対して、許可を求めてきた。家庭において、必要以上の指示・命令・禁止がなされていることを察した。動きが忙しかった。

(4) 資料・情報

@ 生育歴

ア I県K市で生まれ、3歳の時H県I市に移る。6歳の時、今のF市に住みつく。
イ 4歳の時、精神科医の診断で、脳波に異常が認められた。てんかんではない。
ウ 昭和53年10月1日、H幼稚園へ入園
エ 昭和54年4月、H小学校へ入学、

A 家族構成及び家庭環境

ア 父:36歳、会社員
    養育は殆んど妻まかせである。
イ 母:32歳、家事従事
    子供をたえず監視していないと不安でしかたがない。

B 諸検査

ア 本 人
・「人物画テスト」
 グッドイナッフ法 IQ=80
 情緒的問題:心身の悩み、不安、攻撃性がみられる。
 器質的問題:脳障害の疑いあり。
・「社会生活能力検査」
 社会生活能力指数=97

イ 両 親
・「親子関係診断テスト」
父:
危険地帯→消極的拒否、積極的拒否、不安。
準危険地帯→溺愛、矛盾。
母:
危険地帯→消極的拒否、積極的拒否、厳格、期待、干渉、不安。
準危険地帯→盲従、矛盾。

(5) 診 断

@ 生後6年間に、居住地が3回変わっている。
A 4歳の時、脳波検査で異常が認められた。
B 人物画テストで、脳障害が疑診された。
C 両親の養育態度に、拒否、厳格、干渉、矛


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