研究紀要40号 事例を通した教育相談のすすめ方 - 016/025page

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   場面緘黙

1、はじめに

 子供たちにとって学校は、本来、楽しいところであって、にぎやかに遊んだり、競い合いながら勉強に熱中できるところでもある。
 ところが、このような行動に背を向けて、一人ぽつんと黙りこくっている子供を、よく見かける。
 家族のものや、近所の子供たちとは元気に遊び普通の子供と同じようによくしゃべるのに、学校の校門をくぐったとたんに、態度がー変し、貝のようにだまってしまうのである。

 このような子供を、一般に「緘黙(かんもく)」(この場合は場面緘黙)と呼び、学校などの特定の場所(場面)に行くと、異常な緊張や不安がおこり、口を閉ざしてしまうのである。

 口をきかないケースには、@ 器質的な障害によるもの A 機能的な障害によるもの B 心因性によるものの三つが考えられる。場面緘黙は心因性のもので、心の悩みが原因になっている。

 場面絨黙の原因を、さらにくわしく追究すると@ 不安や緊張を感じやすい性格 A 養育態度のまずさからくる周囲との接触の障害 B 過去に心に強い外傷経験をもっていることなどが考えられる。しかし、これらは、独自に存在するのではなく、それぞれに複雑にからみあって、口をきかない状態をつくっている。

 ここでは、主に@、Aからくる場面緘黙に焦点をあて、学級担当の働きかけと親のカウンセリングを中心に、子供に遊戯療法を、試みた事例を紹介したい。

2、事 例

(1) 主訴  場面緘黙

(2) 対象者、H・O  小学校3年女子、9歳

(3) 問題の概要

 昭和54年3月来所。小学校1年生に入学して以来、授業中に指名されても、自分の考えをはっきり答えることができない。勿論、「はい」の返事もできず、集団生活にうちとけない。日常の行動面にも、かたさや緊張がともない、基本的な行動様式ですらやろうとしない。
 家庭では、他の姉妹となんらかわりがなく、楽しく話し合ったり、遊んだりしており、意志の疎通ができている。ただ、父親とはなじめない。

(4) 資料、情報

@ 生育歴

ア、胎生期、出産期には、異常が認められないo
イ、出産時の体重は、2940gで標準児である。
ウ、乳児期に指しゃぶりをしていたが、世話のかからない子供であった。
エ、生後4ケ月頃からベビーホームに入る。(3年間)
オ、4〜6歳まで保育所にかよう。人みしりが強かった。
カ、本人が3歳の時、父親が東京に出稼ぎに出る。これ以後、父親となじめない。
キ、小学校1年生の1学期に話しをして、みなに笑われたことを気にしている。

A 家族構成及び家庭環境

ア、父:37歳、農業、無口で仕事一途である。
イ、母:37歳、工員、働くことに追われ、子供の養育に関心がうすい。
ウ、姉(小5)、妹(3歳)

B 諸調査、検査

・ 「人物画テスト」
  グッドイナッフ法 IQ=103
  情緒問題:
   ・ 心身に悩みを持ち、内気である。
   ・ 幼稚性が強く、自己の行動を抑制しようとする傾向がある。

イ、両親
・「親子関係診断テスト」
父:
危険地帯→積極的拒否、期待、盲従、矛盾、不一致
準危険地帯→干渉
母:
危険地帯→積極的拒否、矛盾、不一致
準危険地帯→消極的拒否、期待  

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