研究紀要40号 事例を通した教育相談のすすめ方 - 022/025page

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   車酔い

1 はじめに

 車酔い、船酔いなどの乗り物酔いに悩む子供が案外多い。乗り物酔いは、症状から、胃腹が弱い、心臓が悪いとか、身体が弱かったり、疲れているからだと判断されやすい。しかし、乗り物酔いは、自律神経の機能障害、特に、交感神経の刺激によってておこる症候群であることが明らかになってきている。

 そして、原因として考えられるものは、@主として身体的原因によるもの、A心身の複合的な原因によるもの、B主として心理的原因によるものに大別できるが、この三つは、複雑に絡み合っていることが多いので、注意する必要があろう。
 ここでは、主として心理的原因によるものに焦点をあて、心理療法(催眠療法)により、緩解させた事例を紹介する。

2 事 例

(1) 主訴 「車(特にバス)酔い」

(2) 対象者 K・W 小学校5年男子 11歳

(3) 問題の概要(昭和54年10月まで)

@ 5歳の夏、一家で裏磐梯方面にバスで観光旅行をした時、気分を悪くして、あげてしまった。
A それ以後、バスに乗るとあげるのではないかと心配し、すぐに気分が悪くなる。
B タクシーに乗る場合も、窓を開けなければ落ちつかない。
C 本年の夏休みに、一人で列車を利用して新潟の親類に行ってきたが、なんでもなかった。
D 普段は、バスに乗ることをきらい、自転車を利用している。

(4) 資料・情報

@ 生育歴

 胎生期、乳幼児期には特に問題はない。
 小学校3年生時に、自家中毒症状になり、期間は短かかったが、3回入院し、治療している。

A 家族構成および家庭環境

ア 父(55歳)、母(49歳)、姉(17歳)および本人の4人家族で、父は国家公務員である。
イ ニ人の姉弟であるが、本人と姉との年齢差があるため、どちらかというと、過保護的な環境のもとで育てられてきている。

B 諸調査・検査

ア 親との面接から
・本人は、車に乗ると、また酔うのではないかと思ってしまい、心の負担になっているように思える。
・親としても、子供が酔ってしまうのではないかと、心配の先取りをしてしまう。
・医師からは、気持ちのもち方次第で、「病気ではない」と言われている。
イ 本人
・「Y-G性格検査」
 C型 消極的安定適応型
ウ 母親
・「親子関係診断テスト」
危険地帯→不安、溺愛
準危険地帯→消極的拒否、厳格
・「エゴグラム(簡易精神分析検査)」
 母親的なあたたかさより、父親的なしつけのきびしさがあり、かつ、他人や自分に対してもきびしく、世間体を案外気にしている。厳格さと子供を認めようとする気持ちが混同し、矛盾を内包しているようにうかがえる。

(5) 診 断

@ 本人の車酔いの症状は、列車・タクシー等ではなんでもなく、バスにだけ強く表出しているところから、過去における苦しい思いをした不安感からくる「心理的な原因」によるものと思われる。

A 母親が、心配のあまり、知らず知らずのうちに、心理的にマイナスの暗示を与えているところに問題がある。

(6) 指導方針

@ 被暗示性を高め、副交感神経系の活動を活発にするため自律訓練簡便法を導入する。

A ラポート確立後は、催眠療法に切りかえ、


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