研究紀要第41号 学習指導の個別化 個を認める研究 - 001/044page
T 研究の趣旨
これまで,一人一人の子供の能力や適性に応じた指導の必要がさけばれ,それぞれの実態に応じた努力がなされてきたが,目まぐるしく変化する情報化社会の情勢の中では,結果的に知識偏重の教育の傾向があったことは否定できない。
このような知識偏重の学校教育の現状を改善するために,国は,教育課程の改善に着手し,その諮問機関である教育課程審議会は,「自ら考え,正しく判断できる力をもつ児童生徒の育成」を重視し,(1) 人間性豊かな児童生徒を育成すること
(2) ゆとりあるしかも充実した学校生活が送れるようにすること
(3) 国民として必要とされる基礎的・基本的な内容を重視するとともに,児.童生徒の個性や能力に応じた教育が行われるようにすることという三つの柱によって。今後の学校教育の新しい方向を示す答申をした。
この答申の趣旨にそって,学習指導要領が改訂されたことは,時代の変化に対応した教育のあり方を示したものと受けとめることができる。ところで,「自ら考え,正しく判断できる力をもつ児童生徒を育成」するためには,一人一人の児童に,自ら進んで学習に取り組めるような場や機会を与えてやらなければならない。しかし,これらの場や機会が与えられたとしても,子供自身に,自ら学習しようとする意欲がなければ,その成果は期待できない。つまり,学習意欲は,個々の学習を成立させるための前提をなすものである。
それなら,児童の学習意欲は,どのようにしたら高めることができるのだろうか。これは,たびたび学校で問題にされながらも,その完全な解答が得られなかった問題であり,古くて新しい課題である。
本研究は,一斉指導の中で,一人一人の児童の意欲を高めるという意図のもとに,これまでの指導を見なおし,改善するという立場から,特別な施設設備を有しない学校で,だれにでも継続してできる,個々の子供に対するより効果的な指導のあり方を追求しようとしたものである。
なお,本研究は,所員13名,研究協力員(小学校教諭)4名の計17名のプロジェクトチームによって行ったものである。
U 研究のねらい
学習意欲とは,「学習目標をとらえて,これを達成しようと決意し,目標達成に向って,個々の心の働きが方向づけられた状態になることである」「動機づけを重視した授業の研究」・山形県教育センター研究報告書第14号)といわれる。そして,学習意欲を育てるためには,先ずその動機づけが必要であり,それは,内発的動機づけと外発的動機づけの二つにわけることができる。
内発的動機づけは,「わかった,できた,おもしろくてしかたがない,もっとやろう」というように,学習の目標を達成したことによる自己の内なるよろこびや満足などの,内的報酬を生み出させるための動機づけをいう、これらの内的報酬は,さらに次の学習への意欲をかきたてるきっかけとなり,原動力となるので,個々に学習を成立させるためには,欠かすことができないものである。
したがって,日々の授業においては,子供に,内的報酬を得させるよう心掛けなければならない。そして,子供に,内的報酬を得させる授業とは,極めて当然のことながら,子供がよくわかる授業ということであろう。
これに対して,外発的動機づけとは,教師や親,友だちなどからほめられるから,しかられるから勉強する,というように,学習する目標が,学習以外のものであって,学習することが手段になってしまうような動機づけをいう。これまでも,この動機づけは,学習意欲を高めるためのひとつのきっかけを与えるものとして考えられてきた。たしかに,自分の学習活動や学習成果が,教師や友だちから認められれば,児童は学習に対する自信を持ち,新しい学習に取り組む意欲をかきたてるようになるであろう。しかしその反面,外発的動機づけによって,学習の目標が,学習以外の