研究紀要第41号 学習指導の個別化 個を認める研究 - 002/044page

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"他から認められる"ことそれ自体が目標になってしまったのでは問題である。これは,外発的動機づけを行う場合の最も注意すべき点である。
 さて,「学習における賞罰の与え方」(辰野千寿・児童心理第18巻第12号)によれば,賞賛や叱責などの外発的動機づけによる効果は,次のようであるという。

@ 賞賛を与える方が,叱責を与えるより効果がある。
A 賞賛は年少児ほど効果がある。
B 賞賛は,内向性の子供に効果がある。
C 叱責は,外向性の子供に効果がある。

 このことから,動機づけの方法として,賞賛や叱責を与える場合には,その子供の性格を考え,その子供にふさわしい与え方をしなければならないことがわかる。

 ともあれ,教師と子供,子供と子供との好ましい人間関係にあふれた教室の中で,教師の,子供の個に応じた働きかけ−子供の性格や学力などを十分考慮した上での賞賛,励まし,受容,共感,叱責など,これらの,その個を生かすための働きかけを,以後は,個を認める働きかけと呼ぶことにする−は,よりよい人間関係を育てる上でも,また,一人一人の子供を生き生きと学習に取り組ませるためにも,必要欠くべからざるものであると考える。

 また,「自ら学ぶ意欲を育てるもの」(杉村健・「児童心理」第34巻第12号)によれば,男子大学生と女子短大生を対象として,「小学校,中学校,高等学校で教えてもらった教師の中で,やる気をおこさせた教師」について調査した結果は,次の表のようであったという。

 この表からも,教師の,個を認める働きかけが大切であることを読みとることができる。
 わたしたちは,個を認める働きかけを,子供が真に学習そのものに興味と関心と喜びを持ち,自分の力で学習に取り組むようにするきっかけを与えるもののひとつとしてとらえ,今回の研究では,「個を認める働きかけ」に焦点をしぼって,その効果的なあり方を追求するために,標記の研究主題を設定した。

やる気をおこさせた先生(人数)
男子大学生
女子短大生




なし
ほめる
やさしい
励ます
熱心に教える
わかるまで教える
厳しい
76
  11
  11
  6
  6
  5
  4
なし
ほめる
励ます
楽しい授業
競争させる
わかるまで教える
やさしい
63
  55
  22
  8
  5
  4
  4




なし
励ます
熱心に教える
わかるまで教える
教え方がうまい
楽しい授業
カツをいれる
54
  16
  9
  9
  8
  6
  6
なし
励ます
熱心に教える
ほめる
教え方がうまい
楽しい授業
厳しい
54
  34
  17
  15
  11
  11
  8



なし
励ます
生徒を理解する
教え方がうまい
カツをいれる
厳しい
わかるまで教える
45
  15
  10
  9
  8
  7
  3
なし
励ます
わかる授業
わかるまで教える
興味ある授業
ほめる
厳しい
55
  43
  13
  12
  11
  11
  9

V 研究主題の解決策

 これまでの種々の授業観察の結果,一時間の授業の中で,教師が指名し発表させた子供の数の最高は18人で,それも一部の子供に限られる傾向が見られた。もとより一時間の授業の中で,学級全体の子供一人一人に声をかけてやることは無理な話ではある。しかし,授業中に指名される子供が,一部のものに限られるような授業がくり返されたのでは,まれにしか指名されることのない大半の子供は,学習に対する取り組み方も消極的にならざるを得ないであろう。

 とすれば,せめて数時間の授業の中では,どの子供にも,少なくとも一回は声をかけてやる機会を持つように努めるべきであると考える。

 そのための具体的な方策としては,例えば,明日の授業では,少なくともA,B,Cの3人には必ず声をかける……というように,あらかじめ働きかける子供を,意図的,計画的に決めておくことも考えられる。そして,働きかけるとは,ただ単に声をかけ,答えさせるのではなくて,子供の性格や学力の程度などの個に応じて,その子供を活躍させる場−教師からみれば,個を認める働きかけを行う場−を指導課程の中に,あらか


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