研究紀要第41号 学習指導の個別化 個を認める研究 - 014/044page

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を発表しやすくなったためであると考えることができ,この意味で,解決策の効果を一応認めることができる。今後,このように,発表に対して,やや積極性のでてきた児童たちに対して,更に,できるだけ多くの児童が“算数が好き”になり,“算数の勉強が楽しく”“やさしい”と思うようになり,“算数の宿題もやってくる”ようになるまで,継続したはたらきかけが望まれる。

イ,徴候観察の結果からみて

 事前において,教師の児童に対する評価は,かなり高かったので,事後には,そう大きな変化は期待できなかった。しかし,結果として,事後には,観察項目1,3,5,7の児童が増えたということは,(この結果を素直に受けとれば,)とりもなおさず,教師の個を認めるはたらきかけによるものと考えることができる。
 すなわち,一人一人の児童が,授業の中で認められ,生かされてゆくことにより興味も増し,もっとわかりたいという欲求もでて,
  ○“注意力が集中できる”児童がふえ,
授業にのぞむ姿勢として
 ○“予習・復習をしてくる”児童がふえ,
 ○“始業までの学習動作”にも影響して,
これらの必然的結果として,
 ○“発表する”児童がふえた
ものと考えられる。

ウ,児童の作文からみて

 次に,「算数の学習について」という題で書かせた児童の作文の内容から,本研究の実験の効果を検討してみたい。これは,算数の学習について,日ごろどう思っているかを自由に書かせたものであり,その自由記述の中から,意図的・継続的な“個に応じたはたらきかけ”の効果を判定してみようというのである。前項で述べたとおり,全体としてはそれほど著しい効果は認められない。

 事前と事後を比較してみると,この学級の児童は,最初から算数が好きであると答えたものが相当数見られる。このことは,この学級の児童の算数に対する学習への取り組みが,日ごろよく行われていることを物語っている。

 また,事後の作文の中で,前よりも算数の学習が楽しくなった。好きになったと述べている児童も相当数見られ,これは本研究での効果のあらわれであると見てよいであろう。また,最初から算数がきらいで,いまもなお好きになれないが,算数は将来にも大事な数科と考えて,自分なりに努力していきたいと述べている児童もあり,これらの児童が,算数の学習が楽しくなり,好きになっていくような工夫が必要となってくると思われる。


 意図的・計画的な“個を認めるはたらきかけ”が,学習意欲の高揚にどのような効果を期待できるかを,ア,アンケートの結果,イ,徴候観察の結果,ウ,児童の作文の3つの調査結果から検討を加えてみた。この学級は,実験にはいる以前から算数の学習に対する取り組みや,自主的な学習態度がだいたいできあがっており,実験期間中の個に対するはたらきかけの効果が統計的な数値の変化としては,そう顕著にはあらわれてはこなかった。

 しかし,児童に対するアンケートで,自分の考えを発表する児童がふえたこと,教師自身がとらえた徴候観察の結果に4項目にわたって変化が見られたこと,さらに,児童の作文の中にも随所に,以前より算数の学習が楽しくなり,好きになったと述べている児童が多く見られたこと,などを総合して考えると,わずか2か月半ばかりの短期間の実験ではあったが,本研究での解決策の効果は,一応認められたといえよう。

 

Z 研究のまとめ

 われわれは,学習意欲が個々の学習を成立させるための重要な前提条件であるという認識に立って,児童一人一人の学習意欲を高めるための方策として,“個に応じた,意図的・計画的な個を認める働きかけ”をとり上げ,研究してきた。

 学習意欲が個々の学習の成立に大きな影響を与えることは,論を待たない事実であり,一人一人の個に応じて働きかけることの重要性も,また,だれもが認めるところである。


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