研究紀要第42号 教育相談における心理検査の活用 - 001/029page

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1.心理検査とは

(1) はじめに

 教育相談においては,まず子供を「理解する」ことからはじまらなければならない。この「理解する」という言葉に,どのような意味を持たせ,どのような立場で,どのような基本的な姿勢をもって臨むかによって,子供,時にはその親や教師などの周囲の者に対する援助・助言や指導の方法が大きく変わってくるのである。

 例えば,問題行動児を,十分に理解して適切な処置をとるためには,いくつかの臨床心理学的な検査を実施し,その所見を得ることが重要であろうと考えている人がいる。また,一方では,これと反対に,そのような検査を実施することは,問題行動児の気持ちを理解するのに,なんの役にもたたないであろうと考えている人もいる。

 前者では,わかろうとする者(教師)が,自分にとって,既存の固定した「子供像」にあてはめて,それで割り切って,わかったとする「わかり方」が,後者では,わかろうとする者(教師)が,子供の独自のあり方,独得な生きた体験に,心を開いて,そのありのままをとらえることによって,わかる「わかり方」が強調されたもので,そもそも,理解の次元が異なっている。

 おのおのの理解のしかたは,個有の長所・短所があり,重要なことは,これらをいかに適切に補い合い,あるいは,統合化して用いるのかということを考えなければならないのである。

 子供にとって,広い視野に立っての統合的理解や予測といったことを考えずに,教育相談に臨むことは,子供を理解しようとする点から考えれば無責任といってよいであろう。

(2) 心理検査の必要性

 心理検査は,カウンセラーにとって,「にしきの御旗」といわれているように,教育相談の中でよく使われるものである。
特に,初心者ほど,心理検査の結果をすぐに診断に結びつけたがる傾向が強いといわれている。だから,子供に,なんらかのテストを実施して,一定の結果が得られれば,それが診断であると即断し,それに基づいて助言を与えれば,相談の仕事は終わったと考えられやすい。

 ところで,問題行動の原因は,ひとつでなく,非常に複雑で多元的である。診断を下すにあたっては,あらゆる方法を用いなければならない。
 心理検査も,そのひとつのデータにすぎないことを忘れてはならない。ぼう大な心理検査のデータを並べてみても,それだけでは,正確な診断を下すことはできないのである。

 さて,心理検査について,定義してみると,心理検査とは,「人間の個人差を明らかにするため,客観的な,標準化された手順によって,行動の見本(言語的ないし非言語的な反応)について,測定を行うものである。その結果は,各個人の心理特性の優劣が,客観的に与えられ,その比較が可能である」ということである。

 この定義づけから考えても,教育相談における心理検査は,医師が身体的診断を下すにあたってレントゲン検査や血沈検査,血圧測定などをするのに似ている。これらの検査・測定は,確かに有効なものであって,病気の症状によっては,診断にとって不可欠なものである。しかし,病気によっては,これらの検査・測定だけでは診断を下すことが危険な場合もあるし,まったく役に立たない場合もある。
 一般的に考えて,心理検査は,次のような場合に用いられる。

 @ 問題がありそうに思われる点にさぐりを入れる。
 A 面接や観察によって得られた資料が正しいかどうかを吟味する。
 B 面接や観察によって得られなかった資料を得る。
 C 長期にわたる面接や観察が不可能で,短期間に結論を出す必要にせまられている。
 D 子供や親に知的な情報を与えることが,相談の効果を高められると考える。

(3) 心理検査を選ぶ基準

  一般的に,心理検査を選ぶ基準としては,次のようなものが考えられる。


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