研究紀要第42号 教育相談における心理検査の活用 - 011/029page

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 前記のように,学業不振の要因を教師の側からの反省も必要であるが,学業がふるわない理由には,子供の側にも多くの要因が潜んでいる場合がある。

 多くの場合,このような子供たちは,学業生活の初期の段階につまずきをおこし,それが早期に改善されないままに悪循環を重ねると,不振の輪を広げてしまうことになる。

 一般に,学業不振の背景としては,性格的要因(意志が弱く意欲がわかないなど)環境的要因(親子・友人関係に問題があり,落ち着けない)身体的要因(虚弱または視力,聴力に障害があり根気が続かない)学力,学習方法上の要因(基礎学力が定着していない,学習のしかたに問題がある)などが考えられる。実際には,これらの要因のうちのいくつかが重複している場合が多い。

 No14の子供についても,学習を阻害している何らかの要因があることは確実で,学習適応性検査(AAT)によって,その背景を探ってみたい。


○ 学習適応性検査(AAT)からの解釈と診断

 図3のプロフィールをみると,どの領域も段階3以下にある。偏差値も28で学習適応性の水準は下で低い方に位置する。

 全般的に低い中でも,家庭,学校環境,友人関係に問題がみられる。また,自主的態度,神経質的徴候,身体的健康といった個人の側にも問題がある。更に学習態度面では,学習意欲や計画にも問題を含んでいる。

 従って,この子供の能力発揮を阻害している要因として学習方法や学習態度家庭,学校環境と友入関係からくる学習環境性格からとみられる精神身体の健康の三つの面で不適応をおこしていることが指摘される。

B 援助指導のために

 援助指導にあたっては,個々人によって異なる資質(能力,性格,身体,学業成就度等)と環境条件を勘案し,これらの条件下で最適の学習効果が得られるような諸条件の配慮と個別指導が前提になる。スタートは,能力発揮を阻害している要因となるものにメスを入れ,それを取り除くことからはじめることが妥当であろう。No14の子供については,検査の結果から

 学習態度や学習環境の調整を図ることから学業不振を改善する。
 子供自身の内面に目を向け,性格的な問題(学習意欲,神経質的傾向など)を含めた身体的精神的健康を高めることから学業不振の改善をはかる。

 この二点が援助指導の重点になると思われる。
 なお,これらの指導の重点をいっそう深くほりさげるために,学習意欲の喪失・神経質的傾向はどこからきているかを明らかにするY−G性格検査などを,学習環境の中の友人関係の改善のためには,ソシオメトリックテストやゲスフーテストなどをテスト・バッテリーに組み入れて,更に細かい資料を得ることが大事になる。また,家庭での学習環境を改善するためには,父兄との話し合いや面接が不可避となる。

 しかし,ここで得られたデータは,子供のある時期のある一断面を見ているにすぎない。全面的な信頼をみることは留意すべきであり,援助指導の一道具として活用すべきである。

(4) テスト・バッテリーを編成する有効性と限界

 上記のように,心理検査の組み合わせによってある問題行動を分析的・総合的に診断することが可能になる。しかも,そのテストが妥当性,信頼性,実用性の高いものであれば,より客観的なデータが得られ,科学的な診断として価値あるものになろう。

 しかし,これらの検査結果は,あくまでも成長発達途上における一時期,一断面で静止した状態での測定にしかすぎない。全人格として把握することは困難なことである。従って,検査によって得られた資料は,あくまでも行動観察や面接における主観的な判断のひずみを補正し,理解の不十分さを補って,科学的な裏づけ,より深い話し合いをつくる意味で行われるべきである。


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